東北大学は、遺伝病の原因となる異常タンパク質の合成を抑制する機構として、異常な「mRNA(メッセンジャーRNA)」の分解を促進する新しい品質管理機構を発見したと発表した。成果は、東北大学大学院薬学研究科の稲田利文教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、4月12日付けで米科学誌「Molecular Cell」に掲載された。

ヒトの体を構成する約60兆個の細胞は、多種多様な機能を持つ。ヒトの遺伝子の数は2万数千個に過ぎないが、最終的なタンパク質の種類が数10倍程度まで増えることで、多様な細胞の機能が担われている。これは、タンパク質を合成する際の鋳型となるmRNA(タンパク質合成の設計図となる遺伝情報を持つRNA(リボ核酸))の種類を増やす仕組みが存在するからだ。

しかし、このmRNAの種類が増加する際には、エラーも同時に起こる。エラーの結果によって生じた異常なmRNAからは異常なタンパク質が合成され、細胞機能に悪影響を及ぼす可能性があるのだ。

このような危険を回避するために、細胞は品質管理機構を持っており、異常なmRNAを認識して排除することで、異常タンパク質の合成を抑制している。今回、研究グループでは、異常タンパク質の合成を抑制する新たな品質管理機構を明らにした。

タンパク質合成を終了させる「終止コドン」(コドンは3つの連続した塩基からなり、それぞれ1つのアミノ酸に対応しているが、終止コドンには対応するアミノ酸がなく、タンパク質合成の終了させるコドンとして機能している)を持たないmRNAは細胞内に多く存在し、かつ遺伝病の原因となる。

これまでに、この終止コドンを持たないmRNAからは、タンパク質がほとんど合成されないことが明らかにされてきた。その分子機構について解析を行った結果、タンパク質とRNAから構成される巨大な装置「リボソーム」(それぞれがタンパク質とRNAから構成される大小2つのサブユニットからなり、mRNAの持つ遺伝情報に従ってアミノ酸同士を結合させてタンパク質合成を担う)がmRNAの末端で停滞した場合に、特異的なタンパク質複合体「Dom34:Hbs1複合体」が結合し、リボソームを解離させることを見出したのである。

また、リボソームが解離する結果、終止コドンを持たない異常なmRNAが、画像のように速やかに分解されることも明らかになった。なお、mRNAは直鎖状の構造をしており、細胞内のmRNAは、複数のタンパク質が集合してできた複合体の酵素である「エキソソーム」によってその末端から効率よく分解される仕組みだ。

左は、終止コドンを持たない異常mRNAの末端で停滞したリボソーム。Dom34:Hbs1複合体がリボソームに結合する。右は、リボソームが各サブユニットに解離する結果、mRNAが解放されるところ。エキソソームによって、異常mRNAが効率よく分解される結果、異常タンパク質の合成が抑制される

この研究成果により、細胞の持つ新たな品質管理の仕組みが分子レベルで明らかになるだけでなく、遺伝病の原因となるさまざまな異常タンパク質の合成を効率的に抑制する治療薬の開発にも貢献することが期待されると、研究グループはコメントしている。また、この新発見は教科書における品質管理機構の記載について、書き換えを迫るものだとした。