漫画家・細川貂々のベストセラーコミックエッセーを、宮崎あおいと堺雅人の篤姫コンビで映画化して大ヒットしたのが『ツレがうつになりまして。』だ。うつ病にかかった夫との生活をユーモアたっぷりに描いており、観終わったあとに思わずホロリとさせられるハートウォーミングな作品に仕上がっている。

■実話をもとにした感動の物語

 高崎家(高は、はしごだか)は、駆け出しの漫画家の晴子と、夫の幹男、ペットのイグアナの“イグ”の3人暮らし。晴子と幹男はお互いを「ハルさん」、「ツレ」と呼び合い、仲むつまじく毎日を過ごしていた。マイペースでネガティブな晴子に対して、ツレの幹男は“超”がつくほどの生真面目な性格。しかも、着用するネクタイや弁当に入れるチーズを曜日ごとにきっちり決めているくらい、几帳面で完璧主義な人間だった。

 そんなある日、突然ツレが真顔で「死にたい」と言い出す。驚いた晴子は、「何があったの?」と心配そうに夫を気遣う。病院で診てもらった結果、ツレの病気は仕事のストレスなどが原因の「心因性うつ病」だった。晴子は以前ツレが突然背中や腰の痛みを訴えたことがあったのを思い出し、予兆を見逃していたことを後悔する。

 そこまでつらいなら会社を辞めればいいのにと思った晴子は、ツレにその気持ちをストレートに伝える。しかし生真面目で責任感の強いツレは、リストラで人員が減って大変な会社の現状を思い、なかなか退職に踏み切ることができない。そこで晴子は「会社を辞めないなら離婚する!」とツレに宣告する。

 晴子の宣言が効いてツレは会社を辞め、自宅で療養することになる。しかし、折あしく晴子が担当していた連載も打ち切りになったばかり。収入源がなくなって失業保険に頼る毎日に危機感を覚えた晴子は、編集部に行って「ツレがうつになりまして、仕事をください!」と頭を下げる。その発言がきっかけとなって新しい仕事を得た晴子は、漫画家として今までの自分に足りなかったものに気づく。同時に、ツレの体調も徐々に回復に向かい始めるのだったが……。

■夫婦の愛の形を描いた珠玉のラブストーリー!

 本作の魅力は、うつ病という重い題材を軽妙な語りとユーモアでくるみ、病を通して深まる夫婦の愛の物語に仕立て上げているところだろう。作中にはさまざまな形で夫婦が互いを思いやるシーンが登場するが、いずれも優しく丁寧に描写されており感動させられる。

 例えばツレが退職する日、「最後の日だから」と言って晴子はツレと一緒にラッシュアワーの電車に乗り込む。ぎゅう詰めの車内に驚いた晴子はツレに「毎日これに耐えていたんだね、えらいね」と言うと、ツレは感極まって人目をはばからずに泣き出してしまう。夫婦という近い距離にいても相手のことを意外に知らないものだと気づかされると同時に、相手の立場に立って考えることがいかに大切かということを痛感させられるシーンだ。

 また、夜眠れないつらさを訴えるツレに、晴子が「じゃあ、昼寝すればいいじゃん。私なんてツレが会社に行っている間、しょっちゅうゴロゴロしてたんだよ」と床を片付けて実際にゴロ寝してみせるシーンも印象的。生真面目すぎて「世間の人が働いている昼間に寝られない」と言うツレの罪悪感をさりげなく溶かしてしまう晴子のほんわかした優しさに、ついほほ笑んでしまう。このほかにも、うつ病がセロトニンという脳内物質の不足で起こると聞いた晴子が食材に気を遣って料理するところなど、忘れられないシーンは数多くある。実話をベースにしているだけに、いずれのシーンも深く心に残る。

■篤姫コンビ再び! 作中に登場するアイテムにも注目!

 主人公の晴子と、そのツレを演じているのは、日本映画界を代表する若手実力派の宮崎あおいと堺雅人。NHK大河ドラマ『篤姫』以来2度目の夫婦役ということもあって、ぴったりと息の合った演技を見せている。監督は『半落ち』や『陽はまた昇る』などで知られる佐々部清。演技派の主演ふたりの魅力を最大限に引き出しながら、コミカルかつハートフルなラブストーリーに仕上げた手腕が見事だ。特に主人公たちの心情の描き方が秀逸。本作を鑑賞する際は俳優の演技だけでなく、作中に登場するアイテムなどにも注目したい。

 例えば、ペットのイグの小屋にかかっている「高崎イグ」という表札。高(はしごだか)の一部が取れてなくなっているのだが、物語後半で晴子がそれを見つけるシーンが登場する。また、晴子がツレに会社を辞めるよう促すきっかけとして、寒ツバキを挿すガラス瓶が登場する。このほか、ツレの寝癖の状態や、ふたりが新しく飼い始めるペットのカメなどにも、晴子やツレの心情が現れている。こうした細かいキーアイテムを読み解いていく楽しさも、本作ならではの魅力。Blu-rayやDVDを何度も観直せば、そのたびに違ったおもしろさや感動を感じ取ることができるはずだ。

文●山口優

【作品情報】

監督:佐々部清
原作:細川貂々
出演:宮崎あおい、堺雅人、吹越満、津田寛治、犬塚弘、梅沢富美男、田山涼成、大杉漣、余貴美子
配給:東映
公式サイト:http://www.tsureutsu.jp/
画像は(C)2011「ツレがうつになりまして。」製作委員会

【『ツレがうつになりまして。』Blu-ray&DVD情報】
発売日:2012年4月13日(金)
価格:
6,090円(Blu-rayプレミアム・エディション 初回限定生産)
5,040円(DVDプレミアム・エディション 初回限定生産)
3,990円(DVD通常版)

【商品仕様】
品番:
KIXF-90063(Blu-rayプレミアム・エディション 初回限定生産)
KIBF-91015(DVDプレミアム・エディション 初回限定生産)
KIBF-1015(DVD通常版)

【特典映像】
プレミアム・エディション映像特典:
making ofツレがうつになりまして。/イベント集(完成披露試写舞台挨拶、初日舞台挨拶)/インタビュー集(宮崎あおい、堺雅人、監督・佐々部清)/劇場予告、特報、スポット

プレミアム・エディション封入特典:
自由に書き込める「ガンバらないぞ!」ダイアリー/劇場パンフレット(縮刷版)