東京大学は3月27日、海水魚がセシウムをエラの「塩類細胞」から排出する機構を持つことを突き止めたと発表した。成果は、東京大学大学院農学生命科学研究科の金子豊二教授、同渡邊壮一助教、同博士課程2年の古川史也氏らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、「American Journal of Physiology Regulatory」および「Fisheries Science」に分けて掲載された。

塩類細胞とは、主に魚類のエラに分布するイオン輸送に特化した細胞のことで、頂端膜を介して外界と直接接する。細胞質にミトコンドリアが多く含まれることからミトコンドリア・リッチ細胞ともいう。

海水魚・淡水魚を問わず、真骨魚の「血液浸透圧」はヒトとほぼ等しく、海水のおよそ1/3に保たれている。浸透圧とは半透膜を隔てて水と水溶液を置いた場合に生じる圧力差と定義される物理化学的用語だ。血液浸透圧の場合はもっぱら無機イオン(主にNa+とCl-)によって規定されるため、血液浸透圧は塩分濃度とほぼ同義と考えてよい。

そのため、海水魚では外から塩類が流入して、血液浸透圧が高くなる傾向にある。ところが実際には、海水魚はエラの塩類細胞から体内に過剰となるナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)を排出することで、血液の浸透圧を海水よりも低く保つことが可能だ。

海水魚の塩類細胞がNa+とCl-を排出することに加え、研究グループはカリウムイオン(K+)を排出することを明らかにし、さらにその分子生物学的機構を解明した。

まず、テトラフェニルホウ酸がカリウムイオンと反応して不溶性の沈殿を生じる現象を利用して、海水飼育した「モザンビークティラピア」(魚類の浸透圧調節研究に広く使われているアフリカ原産のティラピアの1種で、海水・淡水の双方に適応できる広塩性魚)のエラからカリウムイオンが排出されることを示した(画像1)。

画像1に関して詳細に説明すると、まず(a)と(b)は、テトラフェニルホウ酸と反応させた海水飼育ティラピアのエラだ。形成された沈殿が黒い点(矢じり)として観察される。また(b)は、蛍光色素で塩類細胞を赤く染めた像を重ねたものだ。塩類細胞の上に沈殿が形成されていることがわかる。

(c)は、沈殿を形成したエラの走査電子顕微鏡写真だ。(d)はカリウムのマッピング像。形成された沈殿(矢尻)にはカリウムが含まれている。バーは20μmだ。

画像1。モザンビークティラピアのエラからカリウムイオンが排出されている証拠となる画像

形成された沈殿は塩類細胞の開口部に位置し、「マイクロX線分析」(電子顕微鏡で電子線を試料に照射した際に放出される特性X線を解析することで、試料の表面付近の元素分析を行う手法)による元素分析の結果、沈殿に多量のカリウムが含まれることが示された。以上の結果から、海水ティラピアのエラ塩類細胞からカリウムイオンが排出されることが明らかとなったのである。

次に塩類細胞に発現するカリウムイオン輸送に関わる分子を検討した結果、塩類細胞の頂端膜に分布するカリウムイオン輸送体「ROMK(renal outer medullary potassium channel)」(ほ乳類の腎臓で発現することが知られるカリウム輸送体の1種)を介してカリウムイオンが排出されることが判明した。

一方で、同じアルカリ金属(水素を除く周期表の第1族に属する元素)に属するセシウム(Cs+)とルビジウム(Rb+)は、生体内でカリウムイオンと似た挙動を示すことが知られている。従って、体内に取り込まれたセシウムイオンやルビジウムイオンがカリウムイオンと同様に塩類細胞から排出される可能性が考えられた。

そこで、セシウムイオンまたはルビジウムイオンを「入鰓動脈」(腹大動脈から分岐してエラに流入する動脈)から注入したエラで、上記と同様にテトラフェニルホウ酸で塩類細胞の開口部に沈殿が形成されることを確認後、マイクロX線分析で元素分析を行った(画像2)。

その結果、形成された沈殿中にセシウムとルビジウムが検出され、エラの塩類細胞からカリウムイオンと同じように両イオンが排出されることが観察されたのである。

以上の結果から、海水飼育ティラピアにおいて、セシウムイオンとルビジウムイオンは塩類細胞に備わるカリウムイオン排出経路を介してエラから排出されることが示された(画像3)。

画像2。画像2。ルビジウム(a、c、e)またはセシウム(b、d、f)を注入したエラの走査電子顕微鏡写真(a、b)とマイクロX線分析(線分析)の結果。沈殿が形成された箇所特異的にカリウム(c、d)、ルビジウム(e)、およびセシウム(f)が検出された。バーは10μm

画像3。海水魚における塩類細胞のイオン輸送モデル

放射性セシウムの生物学的半減期は海水魚で比較的短いことが、過去の報告から知られている。これには、今回の研究により示されたエラ塩類細胞からの排出機構が関与すると考えられるという。以上の結果は、魚体内におけるセシウムの動態の全容解明につながることが期待されると、研究グループでは述べている。