半導体回路設計ツール(EDAツール)の大手ベンダである米Cadence Design Systemsは、顧客向け技術講演会「CDNLive! Silicon Valley 2012」を3月13日~14日に米国カリフォルニア州シリコンバレーのDoubleTree Hotelで開催した。

CDNLive! Silicon Valley 2012の看板

Cadence Design Systemsは毎年、世界各地で顧客向けの講演会を開催してきた。例えば今年(2012年)は米国シリコンバレーのほかに、ドイツ(5月)、日本(7月)、中国(8月)、イスラエル(9月)、インド(10月)での開催を予定する。主催者であるCadenceによる講演のほか、各地域の顧客企業による設計事例の講演があり、いわゆるベンダーによる宣伝を聞かされるのではなく、設計ツールの利用方法に関する技術が習得できる貴重な講演会となっている。

CDNLive! Silicon Valley 2012の場合は、2日間で90を超える講演が実施された。8個の講演トラックが同時並行で進むという過密なスケジュールである。その中で初日である13日の午前中には、全体講演となるキーノート・セッションが開催された。

キーノート・セッションでは始めに、Cadenceのトップであり、プレジデント兼最高経営責任者(CEO)を務めるLip-Bu Tan氏が講演した。講演タイトルは「Oppotunities, Challenges, and Collabration」である。

プレジデント兼最高経営責任者(CEO)を務めるLip-Bu Tan氏

Tan氏ははじめに、世界のエレクトロニクス市場と半導体市場の先行きを述べた。いずれも2016年まで、世界経済(GDP)のおよそ2倍の成長率で拡大する。2015年のエレクトロニクス市場は約3兆ドル弱、半導体市場は約5,000億ドル弱に達する見込みである。

半導体市場の足元をみると、2011年の半ばから景気後退が起こっていたものの、2011年の年末から2012年の初頭にかけては回復基調にあり、今後の拡大が期待できるとする。

エレクトロニクス市場と半導体市場の推移

半導体市場の景気指標

半導体市場を2010年代にけん引するキーワードは、「アプリ」、「ビデオ」、「モビリティ」、「クラウド」、「グリーン技術」の5つだという。例えば「ビデオ」は、小型のカメラがいろいろな場所に載ることで、市場規模が拡大する。ヘルメットにビデオカメラを載せてパラシュートで降下したり、スケートボードを楽しんだりすることで、これまでになかったシーンを撮影する使い方が生まれているとする。撮影した映像を動画共有サイトにアップすることで、同じ使い方をしたり、別の使い方を考えたりといった需要が発生する。

「モビリティ」では、ハードウェアであるスマートフォンとメディアタブレットの出荷台数が急速に増加していくとの予測を示した。2015年にはスマートフォンの出荷台数は約10億台に、メディアタブレットの出荷台数は3億台弱に達する。出荷の伸びが著しいのはメディアタブレットで、代表製品である「iPad」シリーズは発売後1年で累積出荷台数が2,000万台に達した。これはスマートフォンの「iPhone」、メディアプレーヤの「iPod」をはるかにしのぐ立ち上がりである。

そしてソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を利用するプラットフォームに占める、モバイル機器の比率が急速に高まっている。「Pandora」のトラフィックの60%、「Twitter」のトラフィックの55%をモバイル機器が占める。

こういった「モビリティ」の急拡大と不可分なのが「クラウド」である。クラウドの発達が、SNSのモバイル化とインターネット接続デバイスの急増とを支えている。

半導体市場をけん引するキーワード

「ビデオ」の例。講演では、ヘルメットにビデオを搭載してパラシュート降下するといった、さまざまな使い方が映像で紹介されていた

スマートフォンとメディアタブレットの出荷台数予測

iPodとiPhone、iPadの発売後の累積出荷台数推移

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のトラフィックに占めるモバイル機器の割合

「クラウド」がソーシャル・ネット、インターネット・デバイスを支える

過去、コンピュータはハードウェアの変革とともにデバイスの台数をおおよそ、1桁ずつ増やしてきた。1970~1980年代にミニコンは1,000万台強が出荷され、1980年代~1990年代にパソコンは1億台強が出荷された。2000年代にはインターネット接続のデスクトップ・デバイスが10億台強ほど出荷された。そして2010年代には、インターネット接続のモバイル・デバイスの出荷台数が100億台を超えると見込まれている。

コンピュータ・ハードウェアの変革とデバイスの台数の推移

2020年までにインターネット接続モバイル・デバイスの出荷台数は100億個を超える

そしてモバイル・インターネット時代を代表する企業はそれぞれ、自社のアプリケーションに適したハードウェアを開発している。アプリケーションに適したハードウェアの開発とは、アプリケーションに適したシリコン、すなわちSoC(System on a Chip)の開発を意味する。

モバイル・インターネット時代を代表する企業はそれぞれのアプリケーションに適したハードウェアを開発している

アプリケーションがシステム、SoC、シリコンを決める

最先端のSoC(System on a Chip)は、製造技術では20nm世代に相当する。設計技術と製造技術の両方を独自に開発しているIntelを除くと、大手の半導体メーカーが20nm世代のSoCを量産し始めるのは2012年末~2013年になる。その設計を支えるEDAツール「EnCounter 11.1」をこの3月にCadenceはアナウンスした。20nm世代の大規模SoC設計に向けたツールで、10億ゲートと膨大な規模の回路設計に対応した。

半導体チップの進化の方向。ムーアの法則に沿って進化する「More Moore」(縦軸)とムーアの法則と違った方向に進化する「More than Moore」(横軸)がある。半導体チップの進化を論じるときにはもはや定番といってもよい、概念図だ

20nm世代の大規模SoC設計を支援するEDAツール「EnCounter 11.1」。なおこのスライドではアナウンスが3月8日となっているが、実際にアナウンスされたのは3月5日である

最後にTan氏は、垂直方向の協業関係が最終製品の差異化を促しているとの認識を示した。シリコンファウンドリ企業、IPコアベンダ企業、設計ツールベンダ企業、ミドルウェア開発企業、アプリケーション開発企業などの協業が重要になっている。

その代表的な事例としてCadenceとARM(IPコアベンダ)、TSMC(シリコンファウンドリ)の協業関係を挙げていた。ARMの提供するCPUコア「Cortex-A15」を、TSMCが提供する20nmの製造技術で生産するシリコンの設計を完了させた。今後は、こういった協業がますます重要になる。

垂直方向の協業関係が製品の差異化を促す

Cadence(EDAツールベンダ)とARM(IPコアベンダ)、TSMC(シリコンファウンドリ)