基礎生物学研究所(基礎生物研)は2月28日、「Prickle2(プリックル2)」遺伝子が細胞の極初期の発生過程において、極性化に重要な役割を担うことを明らかにした。成果は、基礎生物研形態形成研究部門の上野直人教授、田尾嘉誉研究員(現トロント小児病院)らと、理化学研究所発生再生総合研究センター動物資源開発室、アイオワ大学医学部、スタンフォード大学医科大学院との国際共同研究によるもので、詳細な研究内容は「Developmental Biology」に2月4日に掲載された。

マウス受精卵は、卵割を繰り返し、将来胎盤を作る「栄養外胚葉(torophectoderm,TE)」と将来体を作る「内部細胞塊(inner cell mass,ICM)」という異なる細胞集団へと分化を遂げ、その後に子宮内膜へ着床する。

それに先んじて8細胞期に起こるのが、それぞれの細胞同士の接着が強化される現象「コンパクション」だ。その一方で、この時期はすべての細胞において細胞の頂底軸に沿った非対称性(極性)が確立される(画像1)。

画像1。マウス着床前胚の発生段階。(A)8細胞期(細胞極性の確立)、(B)16-32細胞期(細胞運命決定)、(C)16-32細胞期(胚盤胞の形成)

この現象が細胞の分化あるいは「胚盤胞」の形成に重要であることは知られていたが、どのように機能タンパク質の分配がなされるのか、また、その極性化の分子・細胞機構についての詳細は不明だった。今回、Prickle2遺伝子に着目し、マウス着床前のPrickle2遺伝子の解析が実施された次第だ。

最初に、Prickle2タンパク質の挙動を観察してみると、2細胞期から核で発現が始まり、8細胞期までは核内に局在していた(画像2)。それ以降、胚盤胞期までは主に細胞質での粒子状の発現を示す結果が得られている。

画像2。Prickle2タンパク質の局在(8細胞期胚を断面にして観察した像:赤色, 核染:緑色、Prickle2抗体を用いた免疫染色)。8細胞期においてPrickle2タンパク質は優先的に核内に存在する

次に、Prickle2遺伝子破壊マウスの表現型を詳細に観察すると、25細胞期以降に胚盤胞が形成されない、または栄養外胚葉への分化マーカーの発現が劇的に減少することが示唆された。

さらに、発生を遡って詳細に解析を進めたところ、頂底軸に沿ったいくつかのマーカー分子の発現が異常を示すことが明らかとなったのである(画像3)。このことは、Prickle2遺伝子がまず8細胞期に起こる細胞の極性確立に重要な役割を担い、その後の細胞の運命決定、胚盤胞の形成にも深く関与していることを意味しているというわけだ。

画像3。Prickle2遺伝子が働かないと8細胞期におきる細胞の極性化に異常が生じる

さらに、脂質修飾の1つである「ファルネシル化」の機能がPrickle2タンパク質の核局在に必要であり、また、極性形成においてもその重要性を示唆するデータが、薬剤投与実験ならびにPrickle2遺伝子の機能実験により確認された。今回の研究によりマウス初期胚(8-16細胞期)に見られる極性形成に基づいた細胞運命決定の仕組みの一端が明らかとなった。

また、今回の結果において従来細胞質あるいは膜上で存在し、「平面内細胞極性」を司ると考えられた同因子がマウス初期胚においては頂底極性の制御に必要とされることが明らかになった。