2011年5月に「地震は電磁気学を応用すれば予知できる - ニュートン力学に固執しては不可能」という記事を書いた。その取材相手である電気通信大学名誉教授の早川正士氏が「地震は予知できる」という本をKKベストセラーズから出版した。地震は予知できない、予知できるというものはペテン師だ、というような風潮がいまだに多いが、電磁気学を応用すれば説明がつくことが多いことを知ってもらいたい、との思いから彼は出版した。

私はかつて半導体物理などの物性物理を専門としていたため、地震のメカニズムに沿って電荷の蓄積を考えると、早川氏の研究は極めてわかりやすい。地震が来る数時間~数日前の動物の奇妙な行動やナマズの行動などについてもある程度説明がつく。地震のメカニズムだけを研究して、ニュートン力学だけを振り回している限り、地震は予知できない。逆にもっと電磁気学と物性物理を理解すれば、地震は予知できるのだ。

地震の予知は、金属疲労の劣化を超音波探傷機で検出して、事故を防ぐことと極めてよく似ている。金属疲労の劣化を予知できないという研究者は恐らくいないと思うが、今の地震学者が地震を予知できないと言っていることは、金属疲労を予知できないと言っていることに等しい。金属疲労が起きて金属が破断する直前には、メリメリという超音波を発する。超音波探傷機はこのメリメリという人間に聞こえないほど高周波の音波を検出する装置である。これと同様に地震が起きる前に、メリメリという超音波に相当する電荷量あるいはそれに相当する物理量を測定しようというものである。学問的に決して意味のないことではない。また偶然でもない。もちろんペテン師では決してない。

ただ悲しいかな、早川氏は東京大学(東大)地震研究所の所属ではないために、研究室には十分な予算が配分されない上に、異端視するような圧力をかけられる。文部科学省(文科省)からの予算は少ない。社会の役に立つ研究かどうかを文科省には判断できる能力がないため、東大という権威を参考にするしかないのである。しかし権威はいつも正しいとは限らない。「それでも地球は回っている」と地動説を唱えたガリレオ・ガリレイが権威に迫害されたことと同じことが現代日本で起きているといえる。

この本は、地震を数日~1週間の誤差で予知できることを述べている。予知するメカニズムは超音波探傷機と同様なのに、権威者にはわかってもらえないという悲しさがある。権威者には理解できる能力がないのかもしれない。国立大学の先生ともなれば電磁気学と物性物理学を勉強すれば理解できると思うのだが。理解する能力も気力もないとすれば一体権威とは何なのだろうか。過去の栄光にしがみついているだけの無能力者ではないのか。

地震は、地球表面の地殻とその下のマグマ流との摩擦によって生じた応力を緩和するために地殻が反発することによって起きる。応力が高まれば歪みによる電荷や超音波を発生するだろう。地下に溜まった電荷は地上の上空にある電離層に影響を及ぼすはずだ。となると電波の到達速度や反射にも大きな影響を及ぼす。早川氏の研究は、この電波の変位を観測するものだ。

ただ、電離層と地下の電荷との関係を紐解くメカニズム関しては筆者と早川氏とは見解が違う。地殻とマグマとの界面に溜まった電荷がガスと共の地表に出てくるため電離層が影響を受けるという説を早川氏は支持しているが、私はそうは思わない。地下の電荷をコンデンサの下部電極、上空の電離層の電荷は上部電極、地球上の大気を絶縁体と見なすと、まるで地球はコンデンサである。地下の電荷が増えると、当然電離層の上部電荷も増えざるを得ない。電離層が局所的に下がり電荷の上下のバランスをとろうとする。このコンデンサモデルでは、電荷が溜まると、地表電流が増えるため、はだしの動物はそれを異常と感じる。鳥類は電離層が下がってくるために上下の電界が強まることを感じる。だから地震前に騒ぐと考えられるのである。早川氏の電離層が下がり電磁波の速度が変わることもコンデンサモデルで説明できる。地震が起きた時に特に阪神淡路の大震災では青い稲妻を見たという人が何人かいたが、これは上下の電荷が放電したと考えればこの現象も説明はつく。

予知メカニズムの詳細はさておいて、早川氏の地震予知について、まじめに考えればもっと精度の高い地震予知の研究が進むはずである。少なくとも地震と電離層とは密接に関係することは事実だ。北海道大学の森谷武男氏、八ヶ岳南麓天文台の串田嘉男氏なども電磁波と地震予知との関係を見出している。電離層が地震予知と関係していることはほぼ間違いないと言って良い。

早川氏の方法だけでも予算を十分に付け、観測網を十分に張り巡らせれば、予知精度は間違いなく上がるのである。それも気象予報ほどの立派な観測網がなくともかなり高い精度で予知できる。電波が届く範囲のフレネルゾーンを数十カ所ほど日本列島に張り巡らせれば今の精度よりも格段に上がる。

予算配分の適切な判断ができない所に現在の日本の政府や経済の停滞があると思う。というのは、もし外国の研究者が同じことを行い同じ成果を出すとしたら、その時になって初めて日本の政府や経済界がこの研究を認めるようになるからだ。これまでの学術界の歴史がそうだった。少なくとも地震のメカニズムだけを研究している学者からは地震予知は出てこないだろう。というのは、地震予知の精度も研究も早川氏の研究成果から見ると足元にも及ばないほど遅れているからだ。メカニズム研究者が言うのは、今後数10年以内にマグニチュード8以上の地震が関東・東海地方にやってくる、という予知にもならない声明だけ。これが社会の役に立っているといえるのだろうか。少なくとも1週間前以内に予知できなければ社会に役立つ地震予知とは言えない。

この本は、地震予知ができる時代にやってきたことを整理して述べている。むしろ今後はもっと精度を上げるための観測網を張り巡らせるべきであることを市民や政府に理解してもらいたい。これを今後の地震対策に生かさなければ、東日本大震災で亡くなられた方々に申し訳ない。同じようなことが再び起こり災害による死者が増えるかもしれないからだ。権威はどうでもよく、対策できるものはすべて採ることが亡くなられた方への供養になるのではないだろうか。

「地震は予知できる!」

発行:ベストセラーズ
発売:2011年12月20日
著者:早川正士
単行本:四六並製/206ページ
定価:1,365円
出版社から:東日本大震災の前兆も掴んでいた!
今後、大地震は起きるのか? 起きるとすれば、いつ、どこで? 世界有数の"地震大国"に住む日本人で、地震予知情報に無関心でいられる人はいない。われわれの誰もが、「いつ、巨大地震に襲われるか」という潜在的な不安感の中で日々を過ごしていると言ってもいい。阪神大震災のように大きな被害をもたらす「内陸・直下型地震」の直前予知を可能にする方法論とは?
すでに地震予知情報を実用化し、東日本大震災の発生も的中させていた著者の"地震前兆電磁気現象"の観測による方法を紹介する。