小学生のころから英語が話せるようになりたいという思いが強かったという杉山愛さん。世界を舞台に活躍し、ダブルスの女王として多くの功績を残してきた杉山さんは、実力はもちろん、英語力を生かし他チームの選手と上手にコミュニケーションをとるなど国際性も高く評価されていました。そんな杉山さんに、実践的な英語を身に付ける方法や、英語の魅力について伺ってみました。

具体的な勉強方法は「英語を聞くこと」

―本格的に英語を身に付けたいと思い始めたのはいつごろですか?

杉山:小学6年生のとき、初めてテニス留学でアメリカに行ったときですね。そのころは、ニック・ボロトリー・テニスアカデミーという、アンドレ・アガシやボリス・ベッカーといったトッププレーヤーを生み出したテニスクラブの日本校に所属し、コーチもアメリカ人だったので、なんとかなるだろうと思っていました。

しかし、実際は全然上手にコミュニケーションがとれなかったんです。アメリカの開放的な雰囲気や、フレンドリーなところも大好きだったので、英語が話せたらあんなこともこんなことも伝えられるのにと歯がゆかったですね。

このころは英語に対する好奇心がわいたというレベルなのですが、一番のきっかけは中学2年生のとき、アジアへ遠征に行ったときです。海外の選手と一緒に練習や食事をしたり、トランプやゲームをしたりする時間があったのですが、とにかく楽しくて……間違ってもいいから伝えようと、ブロークンイングリッシュで話していましたね。

そのころから、英語が話せるようになりたいと、強く思い始めました。

―具体的には、どのように英語を学んでいったのですか?

杉山:とにかく英語に触れる時間を日常的に増やしました。具体的な勉強方法は「英語を聞くこと」。海外遠征に行っているときはいいのですが、帰ってくると日本語の生活に戻ってしまうので、英語を忘れないように常に心掛けました。

例えば、必ず寝る前に同じ映画を繰り返し見るとか。『プリティ・ウーマン』は何度も見ました。今は引退して遠征もないし、日本にいる時間が長いので、海外ドラマを見たり、英語に触れたりする時間を日常的に持つようにしています。

―自分が話す英語レベルについて手応えを感じたのはいつごろですか?

杉山:知らないうちに、と言いますか、だんだん相手の言葉が分かるようになってきたという感じです。

プロになりたてのころ、試合というよりも試合前後のインタビューがプレッシャーでした。ただでさえ緊張しているのに、「英語できちんと答えられるかな」とか、「ウィナーズスピーチうまく言えるかな」とか(笑)。

そのうちに、記者会見やインタビューでも、少しずつ自分の言いたいことが英語で伝えられるようになってきました。日常生活でドンドン英語を使っていたからこそ、自然に英語で表現できるようになったのだと思います。

また、海外の記者は、わざと感情を逆なでする質問をすることもあります。それに対してストレートに感情を伝えられないと、記事を読んでいる人に誤解されてしまいます。そういったメディアを通して、自分の気持ちを表現するプロスポーツ選手というプレッシャーも英語レベルの向上に役立ったのかもしれません。

英語が上達するポイントは最低限の基礎文法と、ボキャブラリー

―杉山さんにとって、英語が上達するポイントは何だと思いますか?

杉山:最低限の基礎文法と、あとはボキャブラリーだと思います。私自身、英語の勉強は中学英語までです。文型などの基礎が理解できていれば、あとは単語を勉強していくことで向上します。

単語も難しい単語ではなく日常的に使う単語。日本語でも普段難しい単語は使いませんよね? ですので、基礎の部分を固めてから、それにプラスして自分の言葉やボキャブラリーを増やしていくことがポイントだと思います。

あと、物おじせずに話す度胸も大切です。私は、分かりにくかったら「What did you say?」、「Say it again, please.」と、すぐに聞き直していました。

また、上達するには、動機付けも大切です。例えば、私の場合、海外遠征中に、誰とも話ができないと寂しい生活になってしまうので、楽しく過ごしたいから英語をマスターしたい!という動機がありました。

学習する前に、何のために英語を話せるようになりたいのかという強い動機を探してみるのも大切だと思います。

―英語が話せて一番役に立ったと思うことはなんですか?

杉山:テニスプレイヤーならではなのですが、ダブルスのパートナーを見つけるときですね。このとき英語は本当に役に立ったと思います。

私自身、シングルスにプライオリティがあったので、ダブルスは勝つためというより楽しみたいという思いがありました。ですので、英語を使って、いろいろ雑談をしながら「この人とは気が合うな」と思ったら、「来年、この大会に出るんだけど、一緒に組んでみない?」という感じで話しかけられたというのが大きかったです。

また、ダブルスの申し込みでカットオフという制度(ダブルスの2人のランキングを足した順位でエントリーし上位数組が出場できる制度)があるのですが、何位までが出られるのかは毎年大会ごとに数字が違うので、この大会は、去年はどのくらいのカットオフだったから、今年はこれくらいになるのではないか、といった情報交換を英語でしていました。

そういう表に出ない情報や関係者とのコミュニケーションで得られる情報のほかに、大会の準備や申し込みなども、自分たちでやらなければならないことが多かったので英語が役立つ場面は多々ありました。

―現役を引退されてから、英語はどのように役に立っていますか?

杉山:引退してから、グランドスラムに解説として行くのですが、そのときに、ロジャー・フェデラーやノバク・ジョコビッチに、ワン・オン・ワンインタビューをさせてもらいました。

実際に自分が感じたこと、聞きたいことをトップの選手にぶつけて、それに回答してもらえることで、自分のテニスの知識も広がりますし、彼らの人間的な魅力も肌で感じることができます。「こういう考え方ができるからこそ、こういう人たちは世界のトップでずっと君臨していられるのだな」と本人を目の前に感じることができるので、自分にとってもプラスになるし面白いです。

日本語と英語をしゃべっている自分で性格が変わる!?

―最後に、これから英語を身に付けたいと思っている方にメッセージをお願いします。

杉山:世界に出ると、今までの自分の中の常識が覆ってしまうくらい、多様な人がいることに気づきます。英語が話せると、そういった人たちに出会える機会が増えて、世界が広がります。

別に、完ぺきな英語を話すのは目的ではなく、間違った英語を使っていても、自分の言いたいことや相手の言いたいことが分かることが大切。間違えることに臆(おく)することなく、どんどん英語の世界に飛び込んでいく、それが、英語が上達する一番の近道だと思います。

私自身、もっと英語を流ちょうに話せるようになりたいと思っています。これは永遠の課題なので、ずっと勉強していきたいですね。

あと面白いことに、私は日本語で話しているときの自分と英語で話しているときの自分について、性格が少し変化するんです。英語を使っているときの方が自分の主張をストレートに言えます。こんな風に自分の新たな一面が見えるかもしれないので、あまり難しく考えずに英語の楽しさを味わってください!

●お話を伺った方

杉山 愛(すぎやま あい) さん
5歳からテニスを始め、15歳で日本人初の世界ジュニアランキング(ITF)1位に。WTAツアー最高世界ランクは、シングルス8位、ダブルス1位など、数多くの成績をおさめ、グランドスラム62大会連続出場のギネス記録も持っている。34歳で現役を引退。書籍『勝負をこえた生き方』を出版。コメンテーター、グランドスラムでの解説、文部科学省の「外国語能力の後方に関する検討会」の委員など、マルチに活躍中。

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