京都大学は1月16日、細胞内で「アクチン細胞骨格」の重合に関わるタンパク質「mDia」分子を欠損したマウスを解析し、抑制性神経前駆細胞に特有の移動の機構を明らかにしたと発表した。京都大学医学研究科の神経・細胞薬理学成宮周教授らの研究グループによる発見で、成果は「NatureNeuroscience」オンライン版に掲載に米国東部時間1月15日に掲載された。

ヒトの脳が形づくられるためには、神経細胞の基となる「神経前駆細胞」が生まれた場所から特定の領域に移動し、正しく配置される必要がある。神経細胞には主に「興奮性神経細胞」と「抑制性神経細胞」が存在し、これらの基となる神経前駆細胞は異なる場所で作られる形だ。

興奮性神経前駆細胞に比べ、抑制性神経前駆細胞はより長い距離を、より速い速度で移動する必要があるため、特有の細胞内メカニズムを備えていると考えられている。白血球などほかの細胞と異なり、神経前駆細胞は移動方向に長い先導突起を伸ばし、細胞体は先導突起を追いかけるようにリズミカルな「跳躍運動」を示す(画像1)。

画像1。抑制性神経前駆細胞の移動におけるmDiaの役割その1。正常な細胞(野生型)では、細胞体移動時に一時的なアクチン細胞骨格の重合(緑色)が細胞体後部で観察される(矢印)。一方、mDia欠損細胞では、細胞体後部のアクチン線維の集積と細胞体の移動が起こらない。矢頭は中心体(赤色)の位置を示す

ヒトの体内ではアクチン細胞骨格という細胞の骨組みとなるタンパク質が組み立てられたり(重合)、バラバラにされたり(脱重合)することで細胞の形態形成や運動が調節されているが、神経前駆細胞における跳躍運動がどの様なメカニズムで引き起こされているのかは明らかにされていなかったのである。

今回、研究グループは細胞内でアクチン細胞骨格の重合に関わるタンパク質mDia分子を欠損したマウス(mDia欠損マウス)を解析。変異マウスでは興奮性神経細胞は正常に配置されるが、抑制性神経前駆細胞の細胞体の跳躍運動が減少しており、脳内で正しく配置されないことを発見した。

また、細胞体の跳躍運動において、mDiaは細胞の後部に一時的に集まり、局所的にアクチン細胞骨格を重合することにより、細胞体を後部から押し出すことが明らかとなったのである(画像2)。

画像2。抑制性神経前駆細胞の移動におけるmDiaの役割その2。モデル図。mDiaは細胞体後部に一時的に集まり、局所的にアクチン細胞骨格を重合することで細胞体を前方に押し出す

これまで、神経前駆細胞が移動するメカニズムの研究の多くは、興奮性神経前駆細胞を対象にして行われてきた。しかし、今回発見されたメカニズムは抑制性神経細胞に特有であり、速い神経前駆細胞の移動を可能にするためのメカニズムであると研究グループでは考えているという。

抑制性神経細胞の異常は、てんかん、自閉症、統合失調症などさまざまな精神疾患に関わることが示唆されている。またmDiaにはヒトの相同遺伝子が存在し、その異常は自閉症の発症と関連があることから、今回の研究成果はそれらの疾患発症メカニズムの解明にも役立つとも期待されるという。