自律型ロボットによる屋外走行実験「つくばチャレンジ」が11月15日~16日、茨城県つくば市にて開催された。この実験は、屋外の実環境をそのまま利用するのが特徴。公道のため、通行人が歩いていたり、自転車が駐輪していたり、道ばたには落ち葉が積もっていたりするが、そうした環境の変化にも、ロボットは柔軟に対応する必要がある。今年は69チームがエントリーし、6台が完走を果たした。

今年のコース。マップ上には、各ロボットがどこまで行けたかを示す磁石が置かれている

スタート地点は今年も「つくばエキスポセンター」。遠くからでも見えるロケットが目印

過去最高難度のコース

今年のコースは、つくばエキスポセンターを出発し、中央公園内の遊歩道を通り、駅前プラザに到着。エレベータで1階まで降り、モール内の廊下を通り抜けて、最後は屋外広場の狭いスロープを上るというもの。途中までは昨年のコースとほぼ同じだが、初めてエレベータの乗降が追加され、コース長も過去最長の約1.4kmとなった。

スタート地点のゲート。5分おきにロボットが出走する

エキスポセンターを出たところで右折。木が少しジャマ

しばらく進むと公園の遊歩道へ。木が多くてGPSの電波が届きにくい

さらに進むと開けた場所へ。周辺に目印が少ない

公園を出て大通りへ。道ばたには落ち葉や自転車も多い

橋を渡って直進。自転車や通行人も多く、安全に避けないといけない

駅前プラザを通り抜けて、ここで折り返す

駅前プラザに戻り、ここでエレベータに。ボタンはオペレータが押す

エレベータにはこんな張り紙が。ロボットが乗っていたら驚くかも

エレベータで1階に降りて、狭い通路を進む

モールの中がコースになっている。屋内なのでGPSは使えない

モールから出たら広場がある。ここに段差があるので注意

ゴールはこのスロープを上った先。幅が狭く、傾斜も結構ある

ここがゴール地点。完走できたのは6チームだ

初日(15日)はトライアル走行(予選)が行われ、約500mの地点にゴールを設置。これを完走できた23チームと次点の2チームの計25チームが、翌日(16日)のファイナル走行に出場した。記者は今回、ファイナル走行のみを取材したので、当日の模様をお伝えする。

完走したロボットは6台

ファイナル走行において、完走できたのは以下の6チーム。走行時間は記録されてはいるが、タイムを争う競技会ではないため、これによる順位付けは行わない(そもそも安全のため、レギュレーションで時速4kmという制限を設けているので、数分の差にそれほど意味はない)。

チーム名 ロボット名 走行時間
千葉工業大学 fuRo アウトドア部 Papyrus III 31分35秒
Scuderia Frola AIST Marcus 27分38秒
宇都宮大学 尾崎研究室チームA MAUV 43分37秒
群馬大学 太田研・ミツバチーム MG11 32分45秒
筑波大学知能ロボット研究室ぺですとりあん る~ぷ 32分37秒
防衛大学校 滝田研究室 Smart Dump 5 27分15秒

技術的に見ると、今年もレーザーレンジファインダ(LRF)を使って周囲の3D情報を取得し、それをナビゲーションに利用しているチームが多かった。当初はGPSが主流であったが、細い遊歩道を通るには精度が不十分。LRFで周囲の木やビルなどを目印にする方法が有効であることが分かり、ここ数年はこの方法が主流となっていた。今年はコースの一部が屋内になっているが、GPSと違い、この方法であれば全く問題がない。

千葉工業大学 fuRo アウトドア部の「Papyrus III」。カメラもあるが、これは走行には使っていないという

筑波大学知能ロボット研究室ぺですとりあんの「る~ぷ」。前面にディスプレイがあるのもユニーク

Scuderia Frola AISTの「Marcus」は、車椅子がベース。ステレオカメラがあるが、これはLRFのデータの色付け用

ナビゲーションに使っているのは、天頂部に設置された可動型のLRF。これで広範囲の3D情報を取得している

群馬大学 太田研・ミツバチームの「MG11」。ステレオカメラもあるが、これは使ってないそうだ

このロボットの制御に使っているのはAtom搭載のネットブック。アルゴリズムが軽いのも特徴だという

防衛大学校 滝田研究室の「Smart Dump 5」。中央の回転する球体がLRF。今大会で最速タイムを記録した

LRFを使うと、周囲はこのように見えている。レーザーが往復に要する時間から、周囲の物体までの距離が分かる

そんな中で、特徴的だったのが宇都宮大学 尾崎研究室チームAの「MAUV」。同研究室のロボットは以前から磁気トレースを利用しているが、今年のMAUVは、磁気トレースとLRFを半々くらいの重み付けにして使っていたそうだ。磁気トレースには、磁気センサを利用。周囲や地中の帯磁した物体の影響により、地磁気は地点ごとに微妙に異なっているが、正しいルートを通ったときの変動を記録しておけば、ライントレースの原理で現在位置が分かる。50cmくらいの精度で自己位置を同定できるという。

宇都宮大学 尾崎研究室チームAの「MAUV」。人が上に乗れるようになっているのも特徴だ

赤いボディの前面中央に、ナビゲーション用のLRFが設置されている

以下、ファイナル走行の様子を動画で紹介する。

早稲田大学 TARO-GPの「JIRO」がエレベータに乗るところ

ゴールの直前まで辿り着いたが、スロープの入り口で進路を誤ってリタイア

つくば知能ロボット研究会の「Rossy」はゴール直前で池に落ちそうになってリタイア

千葉工業大学 fuRo アウトドア部の「Papyrus III」がモールから出てきたところ

ゴールまで辿り着いて、今回のつくばチャレンジで初の完走ロボットになる

続いてScuderia Frola AISTの「Marcus」もゴール。大きいのでスロープがギリギリだ

宇都宮大学 尾崎研究室チームAの「MAUV」がエレベータから出てきたところ

比較的ゆっくりな速度ながら、無事にゴール

群馬大学 太田研・ミツバチームの「MG11」のゴールシーン

筑波大学知能ロボット研究室ぺですとりあんの「る~ぷ」。危うく正面衝突しそうに

電気通信大学 IS研究科 高齢者支援班の「CARTIS TypeS」はセニアカーがベース。エレベータに入るところ

防衛大学校 滝田研究室の「Smart Dump 5」が折り返し地点を通過

順調にゴール。このロボットは走行も速く、抜群の安定感を見せていた

宇都宮大学 尾崎研究室チームBの「ERIE」は公園でスタック。後から来たロボットが追い抜く

来年以降はどうなる?

2007年から始まったつくばチャレンジは今回で5回目。昨年アナウンスされたように、同チャレンジは5年目の今年で終了となる予定だ。

油田信一つくばチャレンジ委員長(筑波大学教授)は、「1つのコースの中に様々な区間があるというのが今回意識した課題。初年度は『コースが1kmもあって大変だな』と思ったが、システムの複雑さを考えれば、今年のトライアルを通過する方が一回りも二回りも難しい。それを23チームが通過したというのは、実力が上がった証拠」と評価。5年間を振り返って、「正直言って、こんなにうまくいくとは思っていなかった。予想以上」と感想を述べた。

ただ、これで満足かというと、「そんなことはない」という。「1kmを走るにしても、スタートボタンを押したら、あとはお茶でも飲んで待っていられるようにならないといけない。安全のためにオペレータが付いて歩いているようでは、本当の意味で自律ロボットとは言えない」とし、さらなる技術の向上が必要との認識を示した。

油田信一つくばチャレンジ委員長(筑波大学教授)

市原健一つくば市長。つくば市も昨年から主催者になっている

ファイナル走行に先だって開催された開会式では、市原健一つくば市長が挨拶に立ち、「今年で終わるのは非常に残念。とても大切な大会なので、何らかの形で継続し、進化させていきたい。油田先生や関係者と協議を進めたい」と発言。「みなさんどうですか? 続けた方がいいですか?」と参加者に問うと会場からは大きな拍手が沸き上がり、「それならば、つくば市を挙げて一生懸命支援していきたい」と表明した。

しかし、来年以降がどうなるかについて、現時点では未定。主催者でつくばチャレンジを運営してきたニューテクノロジー振興財団は、「諸般の事情」により、今年度限りでこれまでのような活動は停止せざるを得ないとされており、続けるにしても、運営組織から新たに準備する必要がある。油田委員長は全く別の課題にすることを提案しており、いずれにしても、つくばチャレンジは大幅に変わることになりそうだ。

「つくば市でロボット実験がやりやすくなったのは、つくばチャレンジの実績と言える。研究者はそれを有効に利用して欲しい。企業も利用して、商品を作ってくれれば理想的」と油田委員長。「つくばチャレンジはあくまで技術的な挑戦だったが、もし来年以降もやるのなら、どう役立つか、どう産業化するかまで視野に入れたものにしないといけないだろう」と、新たな"チャレンジ"に注文を付けた。