国立天文台は11月22日、米国ハワイにあるサブミリ波干渉計を用いて、2つの渦巻き銀河が衝突している「触覚銀河」に分布する巨大分子ガス雲の空間分布を、従来の研究よりも約10倍詳しく明らかにすることに成功したと発表した。国立天文台の川邊良平教授、伊王野大介助教、東京大学大学院理学系研究科の大学院生・植田準子氏らを中心とする国際共同研究チームによる発見で、成果は米天体物理学専門誌「Astrophysical Journal」に掲載予定。

今回観測された銀河は、「触覚銀河」(別名:アンテナ銀河、NGC4038および4039)と呼ばれる、昆虫の触角のように見えることで知られた衝突中の2つの銀河(画像1)。からす座の方向、7000万光年の距離にあり、地球から最も近い衝突銀河だ。

画像1:(左)可視光で見た触角銀河。(右)等高線が今回の観測で得られた分子ガスの分布を表す。背景は、ハッブル宇宙望遠鏡で観測された画像(波長435nm)。主に若い星の分布を表しています。赤色の十字は、2つの銀河の銀河中心を示している

触角銀河は、今後も衝突を繰り返して、1つの銀河になっていくと考えられている(画像2)。1回目の衝突によって銀河内部にあったガス・ダスト・星の一部が銀河の外に投げ出され、それらが2本の長い尾を形作っており、それらが触角のように見えるというわけだ。

画像2:X線・可視光・赤外線で見た触角銀河。赤々と輝いている領域では、衝突の影響を受けて、たくさんの星が誕生している

これらの巨大分子ガス雲で、近い将来、星の大集団が誕生することを示しているという(画像3)。さらに、分子ガスの運動に関しても解析が進められ、片方の銀河の中心付近に、分子ガスが流れ込んでいることも判明した。これは、衝突後の銀河の運命を大きく左右する巨大ブラックホールの成長にも関係すると考えられている。

画像3:(左)可視光で見た触角銀河。(右)触角銀河の衝突の様子を表した模式図

今回の研究では、一酸化炭素分子ガスの観測が行われた。米国のサブミリ波干渉計は、世界中の電波望遠鏡の中でも高い解像度での観測が可能であることから、過去に行われた同様の一酸化炭素分子ガスの観測に比べて、10倍の高解像度を持った画像が得られたというわけである(画像4・左)。

中でも、特に温度と密度が高い領域に存在する一酸化炭素分子を選択的にサブミリ波で観測。一酸化炭素分子ガスの温度・密度分布を調べた結果が、画像4の右だ。2つの銀河中心部だけでなく、それらが衝突している領域でも、局所的に温度と密度が高い分子ガスが発見された(図4・右の白い四角で囲った領域)。その領域にある分子ガスは、衝突の影響を受けて音頭・密度が高くなっていると考えられ、近い将来、星の大集団が誕生すると予想されている。

画像4:(左)高い解像度の観測で明らかになった一酸化炭素分子ガスの分布。(右)一酸化炭素分子ガスの温度・密度を表した図。今回の観測で温度・密度の高い分子ガスを大量に検出したが、その中でも特に温度・密度が高い領域を新たに発見し、それらが画像中の赤色の部分だ。背景は、ハッブル宇宙望遠鏡で観測された画像(波長435nm)。主に若い星の分布を表している

さらに、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)で観測された星団と分子ガスの位置関係を調べたところ、位置の重なり度合いが低いことが新たに判明した。低解像度で観測した場合は、分子ガスがのっぺりと拡がっているように見えていたが、高解像度で見ると、細かい分子雲の塊に切り分けることができたのである。

分子ガスと星団の位置のずれより、サブミリ波で観測される一酸化炭素分子ガスは、星団が生まれる前の、今まさに星が生まれようとしている領域に分布している可能性が高いことも判明した。

解像度が飛躍的に向上した結果、分子ガスの運動も見えるようになり、南側の銀河(NGC 4039)では、銀河中心に流れ込むガスの成分や、銀河中心の周りを回転していると予想されるガスの成分も確認。これらは、シミュレーションによる衝突銀河の理論研究からも予想されていた運動だ。これらのガスの流れの内、銀河中心へ向かうものは巨大ブラックホールの成長にも関係するため、重要なガスの運動として注目されている。

また、ハッブル宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙望遠鏡などがとらえた可視光および近赤外線などの画像と重ね合わせた、多波長の画像も公開されている(画像5・6)。

画像5:一酸化炭素分子ガス・近赤外線・可視光で見た触角銀河。近赤外線は、主にダストに隠れた星形成の分布を表す。赤色の十字は、2つの銀河の銀河中心を示しています。一酸化炭素分子ガスを緑、近赤外線(Spitzer Space Telescope 8μm)を赤、可視光(HST 435nm)を青として重ね合わせている

画像6:中性水素原子ガス・一酸化炭素分子ガス・可視光で見た触角銀河。中性水素原子ガスは、星形成とは関係の薄い希薄な星間ガスだ。画像5と同様に赤色の十字は、2つの銀河の銀河中心を示す。可視光(HST 435nm)を緑、一酸化炭素分子ガスを赤、中性水素原子ガス(Very Long Array 21cm)を青として重ね合わせている

こうした銀河の衝突現場は頻繁に観測されており、また衝突時には爆発的な星の誕生が起こることも判明している。さらに、遠方の宇宙では衝突していると考えられる銀河の割合が増えることも明らかになってきた。そのため、現在では銀河の衝突は銀河進化において重要な役割を果たすと考えられている。

研究チームは、今後、触角銀河のさらに密度の高い分子ガスを観測し、まさに星団が形成されている領域の分子ガスの様子を明らかにしたいとした。そこで、今年秋から初期科学運用がスタートしたアルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)での観測を目指している。