Analog Devices(ADI)の日本法人であるアナログ・デバイセズは11月15日、都内で会見を開き、同社が新たに展開を開始したタクティカルグレード対応MEMSジャイロセンサに関する説明を行った。

アナログ・デバイセズ MPDテクノロジーグループ ディレクターの永井詢也氏

タクティカルグレードはジャイロセンサで定められる4グレードの上から2番目に位置するもので、10°/hr未満のバイアス安定性を実現が求められる規格(最上位は軍用レベルの慣性グレードで0.1°/hr未満)。「最低、数分間はGPSなどの位置情報が入手できなくても安定して自律航行が可能な精度を実現している。これにより例えば同規格に対応したジャイロを使用することで、GPS支援推測航法、プラットフォームの安定化およびステアリングなどの性能を向上させることが可能になる」(同社MPDテクノロジーグループ ディレクターの永井詢也氏)と説明する。

一般的にセンサを何かの製品に組み込もうと思うと、ノイズ抑制のためのフィルタや利用する温度環境範囲でのキャリブレーション/補正、これらの機能のコントロールのためのマイコンなどを検討してシステムを構築する必要がある。しかし、機器の機能が複雑化してきており、センサ周辺の開発だけでも相当な時間がかかる、また、性能向上によるそのパフォーマンスを引き出すためのノウハウの構築/基板のレイアウト技術、テスト環境の構築など、さまざまなリスクをとる必要がある。「我々も単品センサを提供しているが、センサが様々な機器に搭載されるようになってきた現在、カスタマの各種リスクの低減と実装の簡略化を目指し、IMU(慣性測定ユニット)の開発を行った」と、今回の製品提供の狙いを説明する。

ADI初となるタクティカルグレード対応のジャイロセンサおよびIMU

今回開発されたのは2製品。1軸のデジタルMEMSジャイロセンサ「ADIS16136」と、10自由度(3軸加速度、3軸角速度、3軸磁気、圧力の各センサ)のMEMS IMU「ADIS16488」で、いずれもタクティカルグレードのバイアス安定性に対応している。

10自由度のMEMS IMU「ADIS16488」の回路ブロック

1軸デジタルMEMSジャイロセンサ「ADIS16136」の回路ブロック

「バイアス安定性は、簡単にいうとノイズに対する分解能。今回のIMUのバイアス安定性は6°/hr、1分間で0.1°のズレまで補償している。振動感度は0.0001°/s/g2、感度温度係数は35ppm/℃の変動に抑えることができる」とするほか、それぞれのデータを統合しつつ高い精度を実現できているため、個々のセンサを組み合わせてデータの精度補償を行う手間を省ける点もカスタマ側の作業負担を減らすことができる点につながるという。また、「バイアス安定性だけが誤差の主要な原因とはいえない。実際のセンサでは、カスタマがキャリブレーションしても、gの影響や機械的なズレ、振動感度、非直線性、ミスアライメントなどの影響によりノウハウがないと性能を引き出すことが難しい。そこをADIで先に行っておくことで、カスタマはノウハウがなくても、そうした面倒な手間を省けるようになる」と、ADI側で精度を保証することが、センサを活用したアプリケーションにカスタマが注力できることを強調する。

元々の高い性能に加え、セルフテスト機能などにより、実環境における高い精度補償を実現している

そうしたことを踏まえ、同社では同クラスのセンサ/IMUをFOG(Fiber Optical Gyro)の置き換え、および新たなアプリケーション分野に向けた製品として位置付けている。FOGは、光路中を進む光の速度がその光路に無関係に一定であるという相対性理論の法則に基づき、光路の運動によって光路の長さが変わったかのように見える現象(サニャック効果)を用いた光ファイバジャイロで、慣性グレードの性能を実現できる。しかし、高価(1万ドルクラス)であり、軍事用途はともかく、民間レベルの製品にはなかなか使用できない。そうした慣性グレードまでは不要だが、できる限り高い精度が欲しいという分野、例えば高速鉄道や溶接ロボット、無人で稼働する収穫用トラクタなどでの利用を狙うという。ただし、価格はIMUで1190ドル(1000個受注時)と、民生向けなどに比べては圧倒的に高いため、高い精度が欲しいといっても車載などにはなかなか適用しづらいとのことで、オートクルーズシステムなどの付加価値の高い分野は狙えるが、「次世代以降のロードマップとしてMCP化による小型化などを考えており、性能を維持しつつ、小型低価格化を目指す」という方向で価格の低減によるさらなる適用市場の拡大を図っていくとした。

ジャイロと加速度センサは自社製。磁気、圧力のほか、温度センサも搭載しているが、そちらは他社のものを組み合わせ、同社のBlackfinプロセッサにてセンサプロセッシングなどを行い、高い精度を実現しているという