ふと思ったのですが、漫画のジャンルって本当に"何でもあり"ですよね。学園での恋愛を描いた青春物から異世界ファンタジー、ギャンブルに極道、グルメに歴史物……これだけ多岐にわたる物語を描くことのできる表現スタイルは他にはない漫画ならではの特長だろうと思います。

今回はそんな"何でもあり"の漫画の中から、我々日本人の原点――というと大げさですが――に立ち返って「和」をテーマにオススメ作品を選んでみました。和服どころか和室すら日常的に見ることが少なくなった現代、どうしても洋風化する生活の中で今一度「和」を感じてみてはいかがでしょうか。

KATANA

KATANA

日本人であっても大半の人は触ったことすらない日本刀。その奥深い世界と魅力の一端を垣間見ることのできる作品が「KATANA」です。

主人公の成川滉は家業が刀鍛冶の名門という高校1年生。刀研ぎはできるものの、友人が少なく自分に自信が持てない滉は「僕は家の仕事には向いてないんだ」と、実家を継ぐつもりがさらさらありません。

そんな彼には誰にも言っていない不思議な能力がありました。それは、人間の形をとった刀自身の姿が見えてしまうというもの。この異能で日本刀と話すことができる滉は、それ故に様々な日本刀絡みの怪事件に巻き込まれていくのでした――。

なんといっても「刀鍛冶」という珍しいテーマにまず惹かれます。冒頭で述べた通り漫画は"何でもあり"ではありますが、ここまで日本刀や刀鍛冶を主軸に据えた作品はそれほど多くありません。つまり、それだけ漫画にしにくいテーマだということなのでしょうね。たしかに漫画を描くために日本刀の専門的な知識をゼロから学ぶのは伝統ある世界だけに大変ですし、それでいて絵的にも地味です。だからこそバトル物や歴史物に日本刀が登場することはあっても、日本刀そのものがメインの漫画は少ないわけですが、本作はそうした日本刀・刀鍛冶というテーマの取っ付きにくさを、「日本刀の声を聴き、姿を見ることのできる異能」というアイデアで見事に回避しています。これはつまり、一種の"擬人化"です。

そしてそんな人の形をとる日本刀には様々な"因縁"があり、それが原因で様々な事件が起こります。主人を守るためにつくられたのにそれが果たせなかった刀や、持つ者を狂気へ誘う妖刀、あるいは暗殺を目的として生み出された邪刀――それらが人に取り憑いたり、現世に呪いを振りまいたりという様々な事件に、滉は果敢に立ち向かっていくのです。

……もっとも立ち向かうなんて威勢の良いものではなく、気づいたら巻き込まれているといった方が正しい気もしますが、ともかくそうした日本刀絡みのエピソードがどれもよくできていて面白い! 刀鍛冶という難しいテーマをうまくファンタジーに落とし込み、誰もが楽しめる物語に仕上げた秀作です。絵も綺麗でオススメですよ。

陽だまりの樹

言わずと知れた漫画の神様・手塚治虫の幕末歴史巨編……ですが、「ブラックジャック」や「鉄腕アトム」など名作揃いの手塚作品の中での知名度はそこまで高くないため、知らない方も多いでしょう。

Renta!に登録しておきながらこれを読んでないのは本当にもったいない! 歴史物が好きなら絶対に読んで損はないと言い切れる超名作です。

舞台は幕末。蘭学医・手塚良仙の息子の良庵と、府中藩士の伊武谷万二郎は、美女・おせきをめぐって犬猿の仲。そんな最中、良庵は適塾で蘭学を学ぶため、大坂へ旅立つことに。堅物で剣の達人・伊武谷万二郎と、女たらしだけどこと治療となると真面目な医者・手塚良庵。二人の若者は否応なしに幕末の動乱に巻き込まれていくことに――。

幕末といえば歴史物の中でも戦国時代と並んで根強い人気を誇る時代です。ちょうど江戸から明治へと移り変わる時代の境目、己の理想とする日本を実現するためにぶつかり合う男たちの熱い人間ドラマが今もなお多くの人々を魅了しているのでしょう。

本作はそんな幕末に生きる二人の対照的な男たちの人生を通して時代の変化を描いており、かなり綿密な時代考証は同作者の「アドルフに告ぐ」を彷彿とさせるものがあります。手塚治虫は、こうした"一般の人々"の人生を追いかけることでその時代を描くという手法が非常に得意な漫画家で、現在でもこのストーリーテリングにおいて手塚治虫を超える漫画家はちょっと思いつきません。フィクションとノンフィクションの混ぜ方が本当に絶妙なんですよね。

坂本龍馬や西郷隆盛などの有名人が主役の物語はもう飽きた、幕末はもうお腹いっぱいだ、という方にこそお薦めしたい作品です。

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