マイケル・ウィンターボトム監督

六本木で開催中の第24回東京国際映画祭。6日目となる27日、コンペティション部門に出品された『トリシュナ』の監督、マイケル・ウィンターボトムの会見が行われた。

インド・ラジャスタンを舞台に、1人の女性が愛と自分を取り巻く環境に滅ぼされていく 様子を描いたこの作品を、ウィンターボトムは約9年前に着想していたという。原作となったトマス・ハーディの古典小説『テス』に強烈に惹き付けられ、映画用に脚色。しかし、主人公の女性を演じるに相応しい女優を見つけられず、一度は断念した。その数年後、イギリスでフリーダ・ピントと出会い、一も二もなくトリシュナ役に起用した。彼女を撮ってみた印象を訊かれ、「すばらしい女優です。撮影前にラジャスタンに何度も足を運び、家族役の人々と仲良くなってもらいました。マラウィ地方の方言も身に付け、撮影に入る頃には本当の家族のようでしたよ」。

本作では主人公以外のキャストは皆”本人”を演じているという。ホテルの従業員役の人物は実生活でも同じ仕事をしている。こうすることで自然な言動を引き出したとウィンターボトムは説明する。「会話などのやり取りは撮影しながらほぼ即興で行いました。原作のある作品なので大枠はありましたが、撮りながらフレキシブルにいろいろと決定していくという、私がよく行う手法ですね」。

『イン・ディス・ワールド』や『24アワー・パーティ・ピープル』など多岐にわたるジャンルで良作を撮り続けているウィンターボトム。良いテーマを選び取るコツは、という質問には「特にありません」と苦笑。『アイディアはたくさんありますが、映画を作るに至るものはごくわずか。自分が面白いと思い、長く興味を持ち続けられるという題材を選ぶことですね。映画制作の最初の段階で、資金提供者に作品の善し悪しを断言することはできません。だから自分が心から面白いと思い、人を説得できるテーマを選んできました」。

トマス・ハーディ作品の映画化は『日陰のふたり』『めぐり逢う大地』に続き3作目。原作をリスペクトしながらも、舞台をイギリスからインドへ移すなど大胆な設定変更を行い、『トリシュナ』は完成した。コンペティション部門の東京サクラグランプリは30日に行われるクロージングセレモニーにて発表される。東京国際映画祭オフィシャルサイトではその様子をライブ配信する予定。