理化学研究所(理研)、日本原子力研究開発機構(JAEA)、自然科学研究機構 分子科学研究所、高輝度光科学研究センター(JASRI)の研究グループは、X線領域での量子光学現象の応用に向けた第一歩として、極端紫外領域の自由電子レーザーによる、通常の30億倍も明るい「超蛍光」を初めて観測したことを発表した。極端紫外領域の光を用いた観測は今回が初めてとなる。研究は理研放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門の永園充チームリーダーらによるもので、成果は米科学雑誌「Physical Review Letters」10月28日号に掲載。それに先立ち、近日中にオンライン版にも掲載される。

21世紀に入って、直線加速器を基板とする「SASE(サセ)型自由電子レーザー」が出現し、高い反射率を持つミラーが存在しないために光共振器を作れなかった極端紫外(X線よりは短い波長数10nm程度の領域)からX線領域の短波長でも自由電子レーザーを利用できるようになった。

現在、この領域のレーザーは、日本の「SCSS試験加速器」が、極端紫外~軟X線領域では独「FLASH」が、軟X線領域~X線領域では米「LCLS」がそれぞれ稼働中だ。さらに2012年3月からは、日本のX線自由電子レーザー施設「SACLA」(軟X線領域~X線領域)も一般利用がスタートし、そのほか韓国やスイスでもX線領域の自由電子レーザー施設の建設計画が進行中である。21世紀は、短波長領域のレーザー利用が大きく進展すると考えられているのだ。

短波長レーザー利用の黎明期から成長期への移行期間に当たる現在、従来の光学レーザーの発展にならって、短波長領域の新しい非線形光学現象の発見と応用を探索する研究が世界的に行われている。こうした状況下で、研究グループは今回、世界最高輝度を有するSCSS試験加速器施設からの極端紫外レーザーを利用して、非線形光学現象の一種である超蛍光の観察に挑んだという次第だ。

研究グループは、理論と実験の両面から多くの研究が行われているヘリウム原子を試料として選び、高濃度のヘリウム原子ガスを用意。そのガスに、パルス幅が数100fsと非常に短く、高強度な波長53.7nmの極端紫外レーザーを照射して、励起状態のヘリウム原子をその励起寿命よりも短い時間で多数生成した。

その後の脱励起で放出される蛍光の波長、強度、強度の時間変化、偏光性、指向性について、ガス濃度の依存を調べた結果、高い指向性を持った波長501.6nmの蛍光を観測した(画像1)。

この光強度の時間変化を、超高速な光強度変化の観測が可能な超高速光検出器「ストリークカメラ」(時間分解能は最小200fs)を用いて計測したところ、ガス濃度に強く依存した現象を観測した(画像2)。

画像1。超蛍光の証拠画像。高濃度のHe原子ガスに、波長53.7nmの極端紫外レーザーを照射したところ、指向性のある非常に明るい青色(波長501.6nm)の発光を観測した。画面中央の青色がその超蛍光である

画像2。ストリークカメラによる蛍光強度の時間発展とHe原子ガス濃度依存性。ヘリウム原子ガスの濃度が高くなるに従って、パルスの最大強度を与えるまでの時間が短くなり、パルス幅も狭くなっていることがわかる

具体的には、ガス濃度が高くなるほど最大強度を与えるまでの時間が短くなり、パルス幅も狭くなっていくことを見出したのである。そして理論的解析から、この発光現象は10億個のヘリウム原子がいっせいに発光する超蛍光であることが判明した次第だ。

超蛍光は放出する光の波長と同程度の空間に、1個以上の励起原子が存在するような特殊な条件下で起きる集団的発光現象である。その特徴は、励起寿命よりも短いパルス形状(遅延時間とパルス時間幅は励起原子数Nに反比例、最大強度はNの2乗に比例)と、レーザー光のように指向性とコヒーレント性を有していることだ(画像3)。

画像3。蛍光と超蛍光に関する解説(イラストは理系漫画家「はやのん」氏によるもの)

なお、光強度を精密に測定したところ、照射した極端紫外レーザーの光子数に対して、放出された超蛍光の光子数は最大で10%程度までに達していることも判明した。

今回計測した超蛍光は可視光領域だったが、X線のような短波長領域でも、条件さえ整えば、X線レーザーを利用した超蛍光(超蛍光X線)の発生が可能であると考えられている。超蛍光X線は、新原理に基づいた波長変換、タイミング制御、偏光方向変換といった量子光学素子の開発だけでなく、新たなコヒーレント単色X線抗原の要素技術、生体分子構造解析法、物質計測手法など、さまざまな応用へと発展していく可能性があるという。

X線レーザーは基礎科学分野以外にも、医学や創薬、新材料の開発研究などにも幅広く利用されることが考えられているが、超蛍光現象を応用したX線利用技術が開発されれば、新たなブレークスルーを引き起こし、より革新的な利用研究が展開されることが期待されている。