半導体市場において、星の数ほどもあるアナログ半導体ベンダ。その中において、独創的なアイデアを盛り込んだアナログおよびミクスドシグナル半導体を提供するMaxim Integrated Productsの日本法人マキシム・ジャパンが10月4日より幕張メッセにて開催されたCEATEC JAPAN 2011にブースを出展した。

CEATEC JAPANにおける大規模ブースを出展する半導体ベンダの数は景気後退のあおりを受けるなどの影響で年々減っており、今年は遂に同社を除けば純然たる半導体ベンダと呼べる企業はロームとその子会社であるラピスセミコンダクタ(旧OKIセミコンダクタ)のみとなってしまった。なぜ、そうした時期に大々的にブースを出展しようと思ったのかなどについて、マキシム・ジャパンの代表取締役社長である滝口修氏に話を聞く機会を得たので、その狙いなどをお伝えしたい。

マキシム・ジャパン代表取締役社長の滝口修氏

--アナログ/ミクスドシグナル半導体ベンダはかなり多くありますが、現在の状況をどう見ていますか
滝口氏:確かにアナログ半導体を提供する半導体ベンダは星の数ほど多い。しかし、以外にもそれだけの数でも競合しない企業の方が多い。それだけアナログ半導体が他分野で用いられている証拠だと思っている。

我々がターゲットとする部分は、ハイエンドニッチでも、マスマーケットでもないミドルレンジだ。ハイエンドニッチは競合が少ないが、数も出ない。かといってマスマーケットだと、数は多く出るが、競合も多く、性能で差をつけにくい。そのため、敢えてその中間、ミドルレンジを狙ったビジネスを中心に行っている。

例えば、ハイエンドニッチな分野に先端的な技術をつぎ込み強みを持っているアナログ半導体ベンダが電気自動車(EV)市場で現在シェアが高いとしても、まだEVそのものが一般的ではない。我々は今回の展示でも、EVに活用されているバッテリモニタIC(BMIC)などの紹介を行っているが、我々のデバイスを活用することで、マスマーケットにEVを落とし込むことができるようになり、そうした先行企業をキャッチアップできるというメッセージを出している。

--では、自社の強みはどこにあると考えます?
滝口氏:Maximのカルチャーは、他社の持っている製品は作るな、というもので、非常に技術指向が強い企業であり、現在のCEOも2代目だが、カリスマエンジニアと呼ばれたほど技術に精通している。

そのため、製品に対するこだわりは強く、例えばBMICでは、EVでは重要となるバッテリを痛めずに急速充電できるような工夫が施されていたり、残量の計算も一般的には精度が高くないため多めにマージンを取っておくが、我々は極限までマージンを減らす努力をしており、携帯機器などでの採用も進んでいる。

このように技術に強みを持っていて、かつ妥協を許さないからこそ、他社との差別化ができる。例えば、Texas Instruments(TI)が300mmウェハを用いたアナログ半導体の生産を行うことをアナウンスしているが、すでに我々は2010年秋に自社プロセス(0.18μm)を採用した300mmウェハによる量産出荷を開始しており、彼らの先を進んでいると思っているし、タッチスクリーンコントローラ1つ取っても、我々のアナログフロントエンド(AFE)で採用している技術による出力波形と、他社の波形を比べれば、我々の波形にはほぼノイズが乗っていないことがカスタマには分かってもらえる。我々としては"やりたいことは分かっていても、そこに追いつけない、真似できない、そういった製品を作りたい"と思い製品開発を行っており、それを実現してきた。

また、今、2代目のCEOの元で、Maxim全社でカルチャーチェンジを進めようという取り組みをしている。これを一言で表すと「フィールド志向」、つまりカスタマニーズに声を傾けて、それに見合った製品を提供していくということ。当たり前のように聞こえるが、前にも言ったが、技術指向が強すぎて、「良い製品を作れば売れる」という状態が続いていた。実際にそれで60%を超す粗利益率を維持し続けてきたこともあり、なかなかそうしたカスタマニーズを大前提に、ということは頭では分かっていても、実際に行うことができていなかった。それを今、変えようとしている。

--そうした一環でのCEATECへの初参加が決まったと?
滝口氏:それもあるし、日本の機器メーカーなども東日本大震災などの影響含めて、色々と変わろうとしている。そうした状況にあって、日本での浸透度が逆に低い我々にはチャンスがある。

また、EVのような多数の部品が用いられる分野や、スマートグリッドといった規格決めが重要になる分野で我々が相対するプレーヤは現場の技術に精通したプロのエンジニアではなく、極端な話でいうと技術が分からない政治家だったりする。そうした人達が部品やさまざまなメーカーから出される規格などを選別する際の判断基準の1つはやはり知名度があること。そうした意味では、そういった人達も多く来場するCEATECに出展することは大きな意味がある。

--最後に、日本のカスタマおよびエンジニアの皆さんに対するメッセージを
滝口氏:私もエンジニアとして、30年程度ずっとデジタルの画像処理をやってきて、マキシム・ジャパンの社長に就任したのは実は1年半ほど前だ。この間の感想としてはアナログ半導体は面白い、ということ。

特に我々はアナログ/デジタル混載のミクスドシグナルに強みを持っているが、同様のミクスドシグナル系の半導体に強みを持っているベンダの多くがマイコンを中心に、その補佐役としてアナログを周辺に配置している。しかし、我々はアナログを中心に置き、そのおまけとしてマイコンをつけている。

こうした独創的な発想を元にした技術は、Maximが純然たる技術屋集団だからことできること。今後もアナログ半導体ベンダだからこそ、できる面白い表現などをしていければと思っているので、興味を持ってくれる機器メーカーなどがあれば、是非、協力して面白いものを世の中に出して行ければと思っている。

--ありがとうございました。