名古屋大学(名大)などで構成される「NK腫瘍研究会」は、難治性のNK細胞リンパ腫に対して、新たな抗がん剤治療「SMILE療法」が高い効果を示すことを発見した。同成果は、名古屋大学大学院医学系研究科 造血細胞移植情報管理・生物統計学の鈴木律朗准教授、三重大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学の山口素子講師らの研究グループによるもので、米国臨床腫瘍学会誌「Journal of Clinical Oncology(JCO)」に掲載された。

血液細胞の1つであるリンパ球はB細胞、T細胞、NK細胞の3種類からなるが、このうちNK細胞ががん化するNK細胞リンパ腫は欧米にはほとんど見られず、日本・韓国・中国などの東アジアで頻度の高いリンパ腫であり、このリンパ腫の細胞は、抗がん剤を細胞外に運び出すP糖タンパクというポンプの役割を果たすタンパクを持ち、このため通常のリンパ腫に有効なCHOP療法がほとんど効かないことが知られている。進行期例および再発例の寛解率は30%程度と難反応性で、2年生存率は10%程度と治りにくい(予後不良)疾患でありながら、欧米での発症は、東洋や中南米からの移民にほぼ限られ、頻度が低いことから有効な治療法の開発はほとんど行われてこなかった。

今回、研究グループが開発したSMILE療法は、デキサメサゾン、メトトレキサート、イホスファミド、L-アスパラギナーゼ、エトポシドという5つの抗がん剤の組み合わせ治療で、抗がん剤排出ポンプであるP糖タンパクの影響を受けない薬剤を、感受性効果に基づいて順序を決めて投与するというもの。日本のみならず、韓国・香港の血液内科医とも協力し、SMILE療法の多施設共同臨床試験として、全身進行例・再発例・難反応例のNK細胞リンパ腫38例にSMILE療法を実施したところ、寛解率は79%、2年生存率は55%の結果となったという。

なお、研究グループではNK細胞リンパ腫に対して、今後、SMILE療法と骨髄移植を組み合わせた治療方針で、長期的な予後がどこまで改善するか検討していく予定としている。また、同じように抗がん剤の効きにくいT細胞リンパ腫に対してもSMILE療法の有効性が期待されることから、その可能性を探る臨床試験をすでに名古屋大学を中心とした国際共同研究として実施中だとしている。