愛媛大学および京都大学の研究者を中心とする研究チームは10月5日、125億光年彼方にある最遠方電波銀河「TN J0924-2201」(画像1)から放射された「炭素輝線」の検出に世界で初めて成功したと発表した。今回の検出は、ハワイのすばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置「FOCAS」を用いた可視光分光観測によるものだ。今回の研究成果は、2011年8月発行の欧州天文専門誌「Astronomy and Astrophysics」に掲載された。

画像1。最遠方電波銀河「TN J0924-2201」のハッブル宇宙望遠鏡による可視光画像。TN J0924-2201は可視光でわずか25.85等級の明るさしかない。(c) NASA/STScI/NAOJ

宇宙は今からおおよそ137億年前に誕生したと考えられている。誕生直後の宇宙にはビッグバンで生成可能な水素とヘリウムしか存在していなかったが、現在の宇宙には多種多様な元素が存在しているのはいうまでもない。現在の科学では、こうした水素とヘリウム以外の元素は、恒星の核融合反応や超新星爆発によって誕生したと考えられている。

宇宙をより理解するためには、元素の起源と歴史、すなわち「宇宙の化学進化」の全容を明らかにしなければならない。その化学進化を調べる方法の1つが、さまざまな赤方偏移の天体に対してその元素量を調べることだ。赤方偏移は距離の指標であり、同時に時間の指標でもある。つまり、元素量の赤方偏移に対する振る舞いを調べることで、元素量の時間進化を見ることができるというわけだ。

今回、研究チームは、巨大ブラックホールの重力エネルギーにより電波や可視光で極めて明るく輝く「電波銀河」と呼ばれる天体に着目した。電波銀河を用いた元素量診断の研究はこれまでにも行われてきたが、そのほとんどが赤方偏移3辺りまでの宇宙、すなわち115億光年の彼方(=115億年前)の宇宙までしか調べられていなかったというわけである。

しかもこれらの調査の結果は、現在の宇宙に見られるような元素が、115億年前にはすでに存在していたことを示している。これは、少なくとも宇宙誕生後20億年以前の電波銀河を調べなければ、元素が生成されている現場を見ることができないという意味だ。

そこで研究チームは、現在最も遠方の電波銀河TN J0924-2201に着目。赤方偏移5.19、距離は125億光年という最遠方にある電波銀河の元素量を推定するため、すばる望遠鏡による観測を行ったのである。

この天体はこれまでにも何度か観測されており、元素量診断に必要な水素やヘリウム以外からの輝線はとても弱いため検出できていなかった。しかし、今回はFOCASを用いたことで、元素量診断に必要な炭素輝線の検出に世界で初めて成功した(画像2)。

画像2。すばる望遠鏡のFOCASで取得されたTN J0924-2201の可視スペクトルと炭素輝線(下向き矢印)とその周辺の拡大図。画像中の左端付近に見えるのは、水素からの輝線。すばる望遠鏡を用いることで、非常に微弱な125億光年彼方の炭素輝線を世界で初めて検出した

125億光年彼方の電波銀河からの水素およびヘリウム以外からの輝線の検出は今回が初めて。この輝線から宇宙誕生後10億年頃の電波銀河における元素の詳細な研究が可能となった。

今回検出された輝線からわかったことは、すでに相当量の元素が存在しているということ。研究チームは今回の観測とシミュレーションの結果の比較を行い、当時の電波銀河の炭素存在量を推定してみたところ、銀河進化の中でゆっくりと増加してきたと考えられている炭素でさえ、その大部分が宇宙誕生後10億年頃にすでに生成されていたことが判明した。現在電波銀河に見られるような元素のほとんどすべてが、宇宙誕生後10億年以内という極めて短い期間に爆発的に生成されたことを示唆していることがわかったのである。