京都大学、東京大学、およびイスラエルと米国の研究機関所属の研究者からなる研究チームは10月3日、すばる望遠鏡を用いて100億光年以上遠方の銀河に「Ia型」超新星を新たに10個発見したことを発表した。しかも、この内の1つはこれまで知られている中で最も遠いIa型超新星となった。また今回発見された10個の内の9個は、現在までの最遠方Ia型超新星ランキングベスト10入りし、大幅にランキングを塗り替えた形だ。研究成果は、英王立天文学会の学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載予定。

Ia型超新星は、宇宙物理学において非常に重要な天体の1つだ。宇宙に存在する酸素より重い元素、特に金属元素の多くがこの超新星爆発時に作られたとされている。さらに、非常に明るい上に明るさが均一であることから、標準光源として遠方銀河の距離決定に用いられ、それに基づく宇宙膨張の測定は宇宙を加速させる謎のダークエネルギーという宇宙物理学上の大問題の発見にもつながった。

現在のところ、Ia型超新星は連星を組む白色矮星で核反応が暴走することで起きると考えられている。しかし、どのような連星がIa型超新星を引き起こすのかはまだわかっていないのが現状だ。

遠方のIa型超新星の探査は、ダークエネルギー問題や宇宙の元素生成史を明らかにする上で重要だが、当然遠方に行くほど超新星も暗くなるため、探査が難しくなる。すばる望遠鏡は8.2mの主鏡による大集光力と高品質な結像性能に加え、圧倒的な広視野を誇る主焦点カメラを備えており、今回のような遠方の探査に特に強い力を発揮する。

今回の超新星たちは、「すばるディープフィールド」と呼ばれるかみのけ座付近にある満月程度の広さの領域で発見された。同領域には、15万を超える銀河が存在し、その中で時間変動する天体を探索。150個におよぶ超新星を発見し、その中の10個は100億光年以上の彼方のIa型超新星だったというわけだ(画像1・2)。

100億年以上遠方ということは、100億年以上昔のものを見ているということであり、今回のデータを解析したところ、100億年前の宇宙では現在の約5倍という高い頻度でIa型超新星が誕生していたことが判明した。つまり、この時代は現在よりもはるかに速いペースで鉄などの重元素が生み出されていたことになる。

また、Ia型超新星と一般的な星の形成史を比較することで、星が生まれてからIa型超新星に進化するまでの時間スケールも調べられた。Ia型超新星の母天体のモデルとしてはいくつか考えられているが、有力なのが以下の2つだ。1つは、白色惑星と通常の星の連星で、星から白色矮星にガスが降り積もる(降着)ことで起きるというもの。もう1つは、白色矮星同士の連星の合体で起きるというものだ。

白色矮星については説明するまでもないかも知れないが、太陽のようなサイズの恒星が寿命を終え、赤色巨星を経て周囲のガスを宇宙空間にまき散らした後、中心に残るのが白色矮星だ。それも完全に冷え切ると、光を失って完全な燃えかすといっていい黒色矮星となる。

Ia型超新星の発生のモデルに話を戻すと、今回の解析結果によれば、2つ目の白色矮星同士の合体説と一致するという。この結果は、2008年に日本チームが実施したすばる望遠鏡を使って世界で初めて示したもの。その後に世界の複数のグループも追確認をしているが、今回はそれをさらに強く裏付ける結果となった。

ただし、1つ目の降着説でも今回のデータを説明できる可能性は残されていることから、最終的な決着にはさらなる研究が必要とされた。すばる望遠鏡では、間もなく次世代広視野カメラが完成する予定で、それを利用すればさらに多数の遠方超新星を発見できるものと目されている。

画像1。ずばるディープフィールド中のIa型超新星のサンプル。150個発見された内のひとつで、100億年前の超新星爆発だ。今まで観測された中では最も昔に起きたもの。なお、この画像に写っている天体は、少数を除いてほとんどが銀河

画像2。150個の超新星すべてを収めた画像。天の川銀河内の恒星も一部は写っているが、大部分が遠方の銀河であり、恒星にしか見えないものもあるが、どれも我々の天の川銀河同様にそれぞれが1000億個の恒星などで構成されている。3連になっている挿入図はワンセットでそれぞれの超新星に対応している。超新星爆発前の銀河の姿、超新星爆発が起きた時の様子、そしてその前後を差し引きして超新星を浮かび上がらせた画像が3つ並んでいる形だ