日本も参加している、天文学史上最大といわれる国際プロジェクト「アルマ望遠鏡」が、9月30日から科学観測を開始したことが10月3日に国立天文台ALMA推進室より発表された。

アルマ望遠鏡は、「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計」(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)の略称で、「すばる」のような光学系の望遠鏡ではなく、パラボラアンテナを多数利用する電波望遠鏡だ(画像1)。直径12mのアンテナ50台を組み合わせるアンテナ群と、直径12mのアンテナ4台と直径7mのアンテナ12台からなる「アタカマコンパクトアレイ」(ACA)で構成される(画像2)。なお、日本はこのACAとサブミリ波を中心とする3種類の受信機や相関器などを担当。そのため、ACAは「いざよい」という愛称が付けられた。

画像1。すでに建設が完了しているアルマ望遠鏡の19台のパラボラアンテナたち。この内の16台が初期科学運用に使用される。66台全部の本格稼働は2013年までには行う(2012年中)としている。(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

画像2。アルマ望遠鏡の完成予想CG。直径12mと直径7mのパラボラアンテナが合計66台、完成時には建つことになる。(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

アンテナはすべて移動可能で、50台のアンテナの間隔を最大の18.5kmまで広げると、直径18.5kmの電波望遠鏡に相当する「空間分解能」を得ることができ、ミリ波・サブミリ波領域では世界最高の感度と分解能を備えた望遠鏡となる。50台のアンテナ群は天体を高い分解能で観察することが可能で、「いざよい」は広がった天体を高い感度で観測が可能だ。両者のデータを合成すると、細かい構造から広がった構造まで、超高分解能を達成しつつ、精細でしかも天体の真の姿に忠実な電波の象を獲ることができる。アルマ望遠鏡の分解能を既存の望遠鏡と比較した場合、すばるやハッブル宇宙望遠鏡の約10倍になるという。

建設場所は、南米のチリ共和国北部にある、標高5000メートルの高原のアタカマ砂漠だ(画像3)。年間降水量が100ミリ以下、ほぼ年中晴天であること、標高が高いために水蒸気による電波吸収の影響を受けにくいことなどから、比較的短い波長(高い周波数)の電波でも観測可能で、サブミリ波もとらえることが可能というわけだ。また、土地も平坦で広いため、たくさんの望遠鏡の建設に適した場所としてこの土地が選ばれた次第だ。

画像3。5000メートルの高地であるアタカマ砂漠。富士山の山頂よりも1km以上高いので、意識して呼吸をしないとならないらしいし、高山病などもあって研究者たちも大変らしい。画像ではほとんど見えないが、中央正面の山の麓に近い辺りに、多数の望遠鏡が建っている (C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

アルマ望遠鏡は前述したようにミリ波・サブミリ波での観測を行うわけだが、これら波長の短い電波で何が観測できるのかというと、「宇宙漂う低温のガスや塵」だ。いわゆる暗黒星雲と呼ばれることもある、恒星や惑星のもとになる星間ガスや塵だ。可視光では直接観測できないそうしたガスや塵の中で展開されている恒星や惑星の誕生の様子を観測することも可能だし、遠方の銀河も観測しやすいので(画像4)、宇宙初期に銀河がどのように作られたのかといった謎に迫ることも可能だ。

画像4。触角銀河(アンテナ銀河)と呼ばれる、NGC4038と4039。衝突して変形している2つの銀河で、カラス座の方向、約7000万光年の距離にある。この画像は、アルマの初期試験観測期間中(12台前後のアンテナを使用)に得られた観測結果と、NASA/ESAのハッブル宇宙望遠鏡の可視光での観測結果を組み合わせたものだ (C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO). Visible light image: the NASA/ESA Hubble Space Telescope

また、同時にこれらのガスや塵は、「生命の起源となるような物質が宇宙に存在するのか」という命題にも関わっており、生命や化学などの分野でも研究が大きく飛躍すると期待されている。そして、現在、太陽系外の恒星系で数多くの惑星が発見されているが、そうした惑星の中に地球のように生命が誕生する可能性はあるのかといったことにも迫っていく。

構想開始から約30年、建設は2002年からスタートして現在も進められており、2012年から本格運用が開始となる(完成は「2013年までには」という、幅のあるスケジュールとなっている模様)。今回、直径12mのアンテナ16台が稼働を開始し、初の科学観測となる「初期科学運用」を9カ月間にわたって行う。今回の初期科学運用開始に際して、実際に観測が実行されるのが約100件のところ、世界中の天文学者から900件以上の観測提案が寄せられた。世界中の天文学者が稼働を待ち望んでいたことがわかる提案数である。地上のどのような望遠鏡でも、宇宙望遠鏡でもここまで応募が殺到したことはなかったという。その900件強の観測提案は、世界中から選ばれた50名の専門家により、その科学的価値、地域的多様性、アルマ望遠鏡の主要な化学目標との関連性を基準に選考が行われた。

そんな9倍の倍率を勝ち抜いて選ばれた観測の1つが、米マサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード・スミソニアン天体物理学センターのデイビッド・ウィルナー博士のプロジェクトだ。地球から33光年のけんびきょう座AU星での惑星誕生の現場を観察するというものである。AU星は年齢が1200万歳と非常に若く、周囲には惑星の種ともいえる微惑星が回っていると考えられている。惑星がまだ誕生していない段階では、恒星の周囲にガスや塵のベルトがあるわけだが、そうした中に隠れた微惑星を可視光でとらえるのは難しく、微惑星を発見できる可能性があるのはアルマ望遠鏡だけというわけだ。

日本の観測提案も採用されており、東京大学の大内正己博士の非常に遠方にある銀河「ヒミコ」の観測を行う。ヒミコでは、年間で少なくとも太陽100個分の星を生み出し続けており、巨大な明るい星雲に囲まれている。なぜヒミコがこれほどまでに明るいのか、また宇宙が静寂な暗黒の時代に、ヒミコがどのようにしてこのように巨大で高温の星雲を形成できたのかを、アルマ望遠鏡で観測して謎を解くとしている。ヒミコの奥深くに潜んでいる、星が作られる現場にある低温ガスをとらえ、その内部の運動や活動を明らかにするという。これにより、「宇宙の夜明け」の時代にどのように銀河が形成され始めたのかがわかるのではないかとしている。