奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は、イネの花を咲かせるホルモン「フロリゲン」をジャガイモに導入すると、花だけでなく、地下茎に大きなジャガイモが作られることを発見した。同大学バイオサイエンス研究科植物分子遺伝学研究室の島本功教授、玉置祥二郎研究員、そしてスペイン科学技術省バイオテクノロジー研究所のサロメ・プラット博士との共同研究で、成果は英科学誌「Nature」のオンライン版に9月25日付けで掲載された。

フロリゲンは植物が日長や気温といった環境の変化によって刺激を受けることで葉で生産される。その後、花を作る組織である茎の先端部に移動し、花を咲かせるという仕組みだ。長い間正体不明の幻のホルモンと呼ばれてきたが、島本教授らが2007年にタンパク質「Hd3a」(FTとも呼ぶ)がフロリゲンの正体であることを確認。さらに2011年8月にはフロリゲンが細胞内で作用し、花を咲かせる仕組みや、フロリゲンと結合する受容体についても明らかにした。

研究グループでは、フロリゲンがジャガイモを形成する因子として働くかどうかを明らかにするためにHd3aタンパク質の遺伝子をジャガイモに導入。その結果、通常はイモを作らない環境条件で生育させたにも関わらず、多くのイモを作ることが判明した。

詳細にイモの作られる仕組みを解析したところ、ジャガイモの葉で作られたイネのフロリゲンは維管束を通って地下茎に運ばれ、その先端で効率よくイモを形成することを確認。この際、イネのフロリゲンは接ぎ木を経て地下茎に移動した。

また、イネのフロリゲンの導入により、ジャガイモにイモだけでなく、花も地上部の茎に形成されることも明らかになっている。

ジャガイモのフロリゲン遺伝子を解析したところ、ジャガイモはイネのフロリゲン遺伝子と類似の遺伝子を2つ持っており、1つはイモを、もう1つは花を作る器官によって機能を使い分けていることが示された。

これらの結果から、フロリゲンが植物によっては花以外の器官も形成し、その成長を制御することが明らかになっている。花を咲かせる意外の機能も持つ、新規な植物ホルモンであることが確認された。なお、研究グループでは、フロリゲンによってイネの茎の数が増えることを明らかにしている。

フロリゲンはすべての植物に共通する普遍的な物質であり、これまで好きな時に植物の花を咲かせる技術につながる可能性が示唆されてきた。しかし、今回の実験で花以外の器官も形成されることがわかり、未解明の機能を持っている可能性があることがわかったことから、今後、さらにフロリゲンの研究が進めば、ジャガイモの増産だけでなく、これまで知られていない植物の生長を制御できる新しい方法の開発も期待されている。将来的には、農産物の増産やバイオ燃料作物の生産技術の開発への波及効果も期待されているとした。

画像1。イネのフロリゲン遺伝子「Hd3a」を導入したジャガイモ。左端は、フロリゲンを導入していないジャガイモ。右2つは導入したジャガイモで、導入していないジャガイモではイモが育たない環境下でも、導入したジャガイモではイモがきっちりと育っている(画像は、プラット博士より提供されたもの)