九州大学は9月12日、「加齢黄斑変性」の発症に関わる「一塩基多型」(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)が、腫瘍壊死因子受容体「スーパーファミリー10A」(TNFRSF10A)遺伝子のプロモータ領域にあることを明らかにした。

今回の発表は同大学大学院医学研究院眼科学の石橋達朗教授のグループと、理化学研究所ゲノム医科学研究センター田方解析技術開発チームの久保充明チームリーダー、東京大学医科学研究所の中村祐輔教授との共同研究によるもので、成果は日本時間9月12日の米科学誌「Nature Genetics」オンライン速報版で公開された。

加齢黄斑変性(AMD:Age-related macular degeneration)は、光を感じる網膜の中心にある視力に最も重要な部位である「黄斑」に異常が起こり、視力が低下する疾患だ。欧米における成人の失明原因の第1位で、日本でも第4位となっている。AMDはアジア人に多い「滲出性」と、欧米人に多い「萎縮性」に大別される。滲出性AMDでは、加齢による老廃物の蓄積により脈絡膜に発生した新生血管が網膜色素上皮の下、または網膜と網膜色素上皮との間に侵入し、著しく視力が低下してしまうというものだ。

なお、SNP(一塩基多型)とは、約30億塩基対から構成されるヒトゲノムにおいて、個々人を比較するとその塩基配列には当然差異があり、集団内での頻度が1%以上のものを「遺伝子多型」と呼び、その内で最も多い1つの塩基がほかの塩基に変わるものを指す。遺伝子多型は個人差を知る手がかりであり、その違いは病気へのかかりやすさや医薬品への反応の違いなどにも現れる。

今回の研究のきっかけは、過去に行われた遺伝子多型を用いて疾患の感受性遺伝子を見つける方法の1つである「ゲノムワイド関連解析」において、欧米人におけるAMD関連遺伝子の報告はなされていたが、病型の異なるアジア人での報告はなかったことがある。そこで、今回の研究では日本人滲出性AMD患者を対象に調査が行われたというわけだ。

調査は、まず日本人滲出性AMD患者827人および対照者3323人を対象に、ヒトゲノム全体に分布する約46万個のSNPについて「高速大量タイピングシステム」を用いて行われた。高速大量タイピングシステムとは、各SNPの遺伝子型の決定を高速かつ大量に行うシステムである。

結果は、滲出性AMD発症に強い関連を示すSNPがTNFRSF10A遺伝子に存在することが発見された(画像1)。

さらに、別の滲出性AMD患者709人および対照者15571人を対象にして、この遺伝子多型と滲出性AMD発症との関連を調査。この追試調査においても、両社の間に強い関連があることが確認された(画像2)。

画像1。TNFRSF10A-LOC389641遺伝子周囲のSNPと滲出性AMDとの関連。日本人滲出性AMD患者827人での解析結果。縦軸は性年齢調整後のP値の対数表示で、滲出性AMDと最も強い関連があったのは、「rs13278062」で、P=2.46×10-6だった

画像2。TNFRSF10A-LOC389641遺伝子のSNPと滲出性AMDとの関連。滲出性AMDを発症した集団は、コントロールに比べ、危険対立遺伝子頻度が高くなっていた

詳細な解析の結果、TNFRSF10A遺伝子の転写量を調節する位置(プロモータ領域)に存在する多型が、滲出性AMDの発症に関連していることを世界で初めて明らかにしたのである。

今回発見されたNFRSF10A遺伝子のSNPがもたらすAMD発症リスクの大きさは、オッズ比で1.37。つまり、この遺伝子多型を持つ人は持たない人に比べて滲出性AMDを発症する可能性が約1.4倍に高まることが判明したのである。

また、TNFRSF10A遺伝子は「TNFレセプターファミリー」の一種で、「TRAILレセプター1(TRAILR1)タンパク」をコードする遺伝子だ。TRAILR1は、網膜色素上皮を含む多くの組織に発現する。このレセプターにリガンドであるTRAILが結合すると、アポトーシスや炎症性サイトカインの産生を誘導すると考えられるという。

滲出性AMDの発症においては、網膜色素上皮と脈絡膜間の炎症や、視細胞および網膜色素上皮細胞のアポトーシスが重要な役割を担っているとも考えられており、今回発見されたSNPによりTRAILR1の発現量が変化し、滲出性AMDのなりやすさに影響を与えると推測された。

今回の結果から、TNFRSF10A遺伝子のSNPを調べることで、AMD発症リスクおよび発症初期における診断が可能となる。要は、この塩基がチミン(T)であれば滲出性AMDにかかりやすく、グアニン(G)であればかかりにくいということで、これによりAMDの予防および早期治療を行うことが可能になるとした。

今後の展開としては、今回の研究で滲出性AMD発症に関与する新たな遺伝子を同定できたことから、これまで明らかになっていなかった発症メカニズムの解明に役立つことが期待されている。また、TNFRSF10A遺伝子多型を調べることで、個々人における滲出性AMDの発症しやすさを予測できるようになることが期待されるとした。