科学技術振興機構(JST)と理化学研究所(理研)は8月26日、細胞の「自食現象(オートファジー)」を高感度かつ定量的に検出する蛍光イメージング技術を開発したことを発表した。

今回の成果は、JST課題達成型基礎研究によるもので、理化学研究所脳科学総合研究センター細胞機能探索技術開発チームリーダーの宮脇敦史氏と、JST戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「宮脇生命時空間情報プロジェクト」の片山博幸研究員、そして東京医科歯科大学、大阪大学との共同研究によって得られたものだ。米国東部時間8月25日に米国科学誌「Chemistry & Biology」のオンライン速報版で公開された。

オートファジーとは酵母を含めた真核生物の細胞が、普遍的に備えている細胞内成分を分解するための仕組みだ。これまでは、飢餓状態時に自己を非選択的に分解して栄養分を確保し、飢餓環境を生き抜くための機構と考えられてきた。しかし、近年になってオートファジーが変性タンパク質や障害アルガネラ、有害化してしまったミトコンドリア、さらには侵入した病原体を選択的に分解、排除することが明らかになってきたのである。また、オートファジーの破綻は、ガン化や細菌感染、神経性疾患などを引き起こすことも報告されている。

長らく謎だったのが、オートファジーの分子機構についてだ。しかし、近年になって酵母のオートファジー関連遺伝子群「Atg」の同定に成功したことから、その分子機構の解明が進んでいる。オートファジーを検出するイメージング技術も、このAtgタンパク質群のうちの1つである「LC3」が、細胞内成分を囲い込む袋状の構造「オートファゴソーム」に集積することを利用して、LC3にオワンクラゲ由来の「緑色蛍光タンパク質GFP」を連結した「GFP-LC3]を用いて行っている。ただし、オートファジーの一種である「マクロオートファジー」の現象が進むとオートファゴソームが消失するため、GFP-LC3の蛍光シグナルは一時的にしか検出されず、シグナルが持続する蛍光プローブの登場が待たれていたという状況だった。

さらに、オートファジーには、マクロオートファジー、「ミクロオートファジー」、「シャペロン介在性オートファジー」、「Atg5/7非依存性の新たなマクロオートファジー」の4種類が発見されているのだが(画像1)、このうちLC3を用いるのはマクロオートファジーのみ。ほかのオートファジーでも広く可視化できる技術が求められていたのである。

画像1。オートファジーのイメージ。細胞は従来よりも多くのオートファジー機能を有しており、しかも飢餓状態時の非常手段という従来の認識から大きく変わってきており、有害となったミトコンドリアや、侵入病原体を選択的に分解することもわかってきている

そこで今回の研究では、オートファジー共通の特性を利用することとした。共通の特性とは、分解される基質が最終的にリンゾームに到達して、そこで分解されるということ。リンゾーム内は酸性だが、基質の周囲の中性。ただし、オートファジーが進むにつれて基質の周囲は酸性へと変化していく。そのpHの変化を捉えることで、オートファジーの総量を検出できると研究グループは考えたのである。

一般的にたんぱく質はリンゾーム内では酸による変性や、たんぱく質分解酵素「プロテアーゼ」による影響を受け、分解されて機能を失っていく。しかし、2008年に同研究グループは、サンゴ由来の蛍光たんぱく質が酸やプロアテーゼに強く、リンゾーム中でも蛍光を発し続けることを発見した。その中でも蛍光特性がpHによって変化する「dKeima」を用いたところ、オートファジーの総量を検出、可視化することに成功したというわけだ。また、マクロオートファジーが起こらないAtg5欠損細胞にdKeimaを発現させると、Atg5に依存しないオートファジーの検出にも成功(画像2)。これにより、dKeimaによりマクロオートファジー以外の3種類についても観察可能であることがわかったのである。

画像2。Aのグラフは、dKeimaの励起、蛍光スペクトル。dKeimaの励起スペクトルは、周囲のpHによって変化する。中性環境では短波長側優勢だが(青線)、酸性環境では長波長側優勢に変化(赤線)。Bは上がdKeimaを発現する野生型、下がAtg5を欠損しているためにマクロオートファジー不能の細胞。左は栄養培地で、右は飢餓培地で培養したもの。野生型では飢餓状態になるとオートファジーが誘導されるが、欠損型では恒常的にオートファジーが増加していた

細胞内でエネルギーを作り出すミトコンドリアは、希にだがその課程で有毒な活性酸素を産み出してしまう場合があり、速やかに隔離されて分解される必要があるのだが、最近の研究ではこうした傷ついたミトコンドリアは目印がつけられ、識別された形でオートファジーによって分解されることもわかってきた。選択的オートファジーのことを「マイトファジー」と呼ぶのだが、同研究ではミトコンドリアに局在する(mt-mKeima)を作製し、このマイトファジーを簡便に検出、可視化することに成功したことを、今回の研究で発表している。

今後の展開としては、フォールディング病(アルツハイマー病、ハンチントン病など)の発症メカニズムの解明と治療薬の探索、パーキンソン病の発症メカニズムの解明と治療薬の探索、動物個体でのオートファジーのモニターなどで活躍することが期待されている。