現在NTTドコモは、LTE方式を採用したデータ通信サービス「Xi(クロッシィ)」対応のモバイルWi-Fiルーター「L-09C」を6月30日に発売したことにともない、8月31日まで、「『金の鉄人が当たる』キャンペーン」を実施している。
キャンペーンは、ドコモの契約の有無にかかわらず、抽選で10名に高さ13センチの「超微細加工&純金メッキ仕上げ」の鉄人28号フィギュアをプレゼントするというもの。このフィギュアは、F1マシンのエンジンや人工衛星の部品などの金属精密加工を手がけ、世界一精度の高いサイコロを制作したことでも知られる埼玉県入間市の金属精密加工企業「入曽精密」が作ったもので、同社の斎藤清和社長は、企業キャンペーンの景品という位置づけながら、日本が誇る「製造業」「技術」を体現したものだと自信たっぷりだ。
斎藤社長によると、制作期間は約2カ月。大まかに分けて7つのパーツから成り立っており、さらにそこに細かいパーツが組み込まれ、総数は30~40個にも及ぶとのこと。すべてのパーツは、金属を削り出して作ったもので、もっとも細かいものは、髪の毛ほどの太さだという。
フィギュア製作はまず、ポリゴンで描かれた鉄人のCGデータを変換することから始まった。これは、斎藤社長曰く「有機的な『絵』を製造業としての設計図に置き換える作業」であり、「職人技とITの融合」を基本姿勢として掲げる入曽精密ならではのアルゴリズムがあったからこそ、鉄人のような微細な形状でこのようなデータ変換が実現できたという。 そして、変換された設計図をもとに真鍮の塊から超微細なパーツを一刀彫で削り出すのだが、斎藤社長によるとこれも入曽精密の技術だからこそ実現したものだという。
日本の製造業の最新技術が集約しているといえる金の鉄人フィギュア。斎藤社長は「このフィギュアを世界に紹介して、日本の技術力をアピールしていきたい。そして日本の製造業の誇りを取り戻したい」と語る。
製造コストの低いアジア諸国へのシフトが進む日本の製造業。東日本大震災後、その傾向が強まっているとの話も聞こえてくる。そんな現状を斎藤社長はこう語る。
「日本はアジアに技術を教えるだけで終わってしまっていた。そこからさらに新たな技術を学んで、成長するということを怠っていたのではないでしょうか。だから、今一度、この鉄人フィギュアで、日本の技術力がトップレベルであるということを表現したかったんですよ。個人的にはこのフィギュアに日の丸をつけて、世界に持って行きたいですね」。 少々寂しい日本国内の製造業の現状に、大きな風穴を開けることのできる革新的かつ芸術的な製品が金の鉄人フィギュアなのだ。
また、次なる野望について、「今の日本の製造業には、夢を描いて実現しようとする気持ちが足りないと思います。どうしても、すでに市場が存在している製品ばかりを開発し、新たなチャレンジに踏み出せていない。もっと革新的でクリエイティブなものづくりを進めていくべきです」と語る。
さらには、新製品のひとつの案として漫画『ドラゴンボール』に登場するスカウター(※戦闘力を測る道具)を挙げ、「ポリゴンのCGデータを製造業としての設計図に変換できるということは、つまりゲームやアニメの世界で登場したものを、現実に製造できるということでもあるんです。日本はそれだけの高い技術力を持っているのだから、マンガチックなものでも本気でやっていくべきだと思います」と、大きな夢を語った。
今、日本の製造業には「クリエイティブな野武士」が必要だと斎藤社長は話す。組織ばかりを優先して、革新的なアイディアがなかなか採用されない日本の企業において、クリエイティブな発想もってして、組織を破壊できるような一匹狼的野武士の存在が重要になってくるというのだ。
埼玉県の町工場で、次々と革新的な技術を生み出し、日本だけでなく世界の製造業へ衝撃を与える入曽精密は、まさしく「クリエイティブな野武士」といえる存在なのかもしれない。そして、この思想が日本の製造業全体へ伝播していけば、誇りある日本の製造業が世界のトップに君臨することとなるのだろう。
(執筆:相羽真)