日本レコード協会は8月8日、YouTubeなどの動画サイト利用者における、音楽コンテンツの取り扱いの実態について調査した結果を発表した。インターネットユーザーの7割が動画サイトを利用しており、1年間に12億の音楽ファイルが違法にダウンロードされていると推計されたという。同協会では、今回の調査をもとに、今後の対策などについて検討していきたい考えだ。

1年で12億の音楽ファイルが違法ダウンロード

今回の調査は、4月に設置された「動画サイトの利用実態調査検討委員会」(座長・濱野保樹東大教授)が調査・検討を行ったもので、同委員会では、ほかにも東京都地域婦人団体連盟、ヤフー、ニワンゴなどの委員7人が参加。調査では、Webと郵送のアンケートを三菱総合研究所が実施した。プレ調査、本調査の2段階調査を行い、プレ調査では約1万、本調査では約4,200の回答を得た。

検討委員会座長の濱野保樹東大教授

調査を行った三菱総研の伊藤陽介研究員

調査対象は13~69歳で、国勢調査からこの年代の全人口は9,394万2,000人であり、調査結果から全体の利用者数を割り出した。インターネット利用者は95.2%となる8,935万5,000人、そのうちの動画サイト利用経験者は73.6%に当たる6,914万1,000人。その中で動画サイトから動画のダウンロードができることを知っていたのは54.1%の5,078万人で、動画のダウンロードをしたことがある人は36%に当たる3,382万8,000人と推計された。

調査結果から、インターネットユーザーの7割が動画サイトを利用する「社会インフラ」とも言えるメディアだった

動画サイトの利用者のうち、もっとも利用されていたジャンルは音楽関連のさらに邦楽で、Webアンケートの62.7%、郵送アンケートの71.5%が利用していた。個人や映像クリエーターなどが趣味で制作したと思われる作品の利用が続いて、同38.3%、38%。続いて洋楽関連が同37%、32.1%となっていて、その後テレビ番組などの利用者が続き、音楽関連での利用者が多いことが伺えた。

音楽コンテンツの視聴に利用されることが多く、視聴時間も長いのが特徴

視聴時間に関する質問でも、全体の6割が音楽関連の視聴に費やされており、音楽コンテンツの需要の強さが示されていた。また、個人や映像クリエーターによる趣味などの作品と思われるコンテンツの視聴時間も長く、個人で作品をアップロードするような使われ方が増えているため、同委員会でも「特筆すべきという意見が合った」(三菱総研・伊藤陽介研究員)という。

動画サイトの利用者のうち、全体で7割以上のユーザーが「(ストリーミング配信であっても)ダウンロードできる」ことを知っていたということで、「年代を問わず、ダウンロードが可能なことが知れ渡っていた」(伊藤氏)。さらにこのダウンロードが可能だということを知っていたユーザーの中で、6割以上が実際にダウンロードした経験があった。ダウンロード利用者は若年層ほど高くなる傾向だが、10代以上の全年代でも6割前後はダウンロード経験があり、広くダウンロードされていた。

ダウンロードができることを知っているユーザーのうち、6割以上が実際にダウンロード経験があった。ダウンロードには無料のソフトをインストールするか、専用サイトからのダウンロードが多かった

音楽コンテンツの中でも、音楽CD/DVDや音楽配信で正規に取り扱われている作品に絞り、どれだけダウンロードされているかを調査したところ、邦楽ではこの1年間で平均63.4ファイルが、洋楽では同53.4ファイルがダウンロードされており、合わせて1人あたり年間116.8ファイルをダウンロードしている計算になった。

テレビ番組やアニメなどもダウンロードされているが、その中でも音楽ファイルのダウンロード数が多い

ただ、このうち正確な意味での「違法なダウンロード」がどの程度かは推測するしかないが、アンケートしたユーザーの認識として「違法なダウンロードだった」と感じた割合で見てみると、1人あたり50~80%のファイルが違法なファイルをダウンロードしたものだった認識していたそうだ。

違法という認識のあったファイルは5~8割という結果だった

これらの結果を集計すると、全体で動画サイトから12億の音楽ファイルが違法にダウンロードされていると推計され、違法ダウンロード自体も増え続けていると見られた。あくまでユーザーの申告による調査であり、「動画サイトからのダウンロード」に限定した調査だが、それでも多くの音楽コンテンツがダウンロードされており、濱野保樹座長は動画サイトが、「違法・合法にかかわらず、音楽コンテンツ流通の大きな手段になっている」と指摘する。

これを踏まえて計算すると、動画サイトからだけで、12億ファイルが1年間で違法にダウンロードされたということになった

動画サイトのプラス効果も

音楽コンテンツをダウンロードする理由については、「自分のPCや携帯、音楽プレイヤーなどでいつでも好きなときに聴取したい」「好きなアーティストの曲や映像は保存しておきたい」という意見が多いものの、「CD/DVDの価格が高い」「(販売されていないなどの理由で)入手が困難」「音楽配信の価格が高い」という意見もあり、伊藤氏は「音楽ビジネスの問題点も示唆している」と強調する。

好きなアーティストの曲などはいつでも手元に置いて追いたいという反面、「高い」「手に入らない」という理由でのダウンロードも多い

また、12億ファイルの違法ダウンロードをはじめ、動画サイトを視聴することで音楽ビジネスにどういった影響を与えるかの調査も行われた。動画サイトでのダウンロード経験者に対して、同サイトを視聴で音楽の聴取頻度や時間、アーティストや楽曲への興味・関心などを聞いたところ、いずれも「増えた」という回答の方が多く、プラスの効果があったという。

逆に動画サイトからのダウンロードによってCD/DVDの購入やレンタル、音楽配信の購入などが減ったかどうかを聞いたところ、「減った」という回答の方が多く、マイナスの効果が見られたそうだ。全体としても、プラスの効果よりもマイナス効果の方が大きく、「全体として音楽コンテンツに対する支出の減少傾向が見られる」(同)という。

動画サイトによるプラス効果とマイナス効果。全体で見ると支出が減少するマイナス効果の方が大きかったという

とはいえ「ここで調査をやめると、音楽業界として対応する観点が先に進まないので、セグメントを分けて影響を深掘りした」(同)分析も実施されている。調査ではある程度お金をかけて商品を購入する「セグメント1」、購入まではしないがレンタルはする「セグメント2」、なるべく金をかけずに入手する「セグメント3」、音楽への関心が低い「参考」という4セグメントに分類して結果を分析した。

それをさらに細かく分類すると、ユーザーのセグメントによってそれほど影響を受けない項目もあり、逆に大きく影響を受けるセグメントもあった

その結果、セグメント1ではCD/DVDの購入が、セグメント2ではCD/DVDのレンタルに関しては、マイナスの影響はあったものの、その影響度合いは比較的小さかった。どのセグメントでも、動画サイト利用によって有料音楽配信の利用率は2ケタのマイナスとなったが、セグメントによっては購入やレンタルが数%の影響にとどまっており、動画サイトによって音楽の購買行動にもっとも影響を受けるのはセグメント3の「なるべく金をかけずに入手する層」だった。

濱野座長は、「調査前に考えていた、動画サイトによる違法ダウンロードは若い人の一部の行為、限定されたユーザーだけと思っていた」と話し、幅広い世代がダウンロードを行っている点が意外だったと指摘。濱野座長は、「こうした調査が今後の音楽ビジネスに寄与すると信じており、結果が生かされると期待している」と述べる。

結果に対してレコード協会の畑陽一郎理事は、動画サイトだけでなく、ファイル共有ソフトや着うたの違法ダウンロードなど、違法行為はほかにもいろいろあり、結果を踏まえた対策を進めていきたいと話す。「一義的には違法なアップロードを削除要請で対策していく」(畑氏)ことを今後も推進していくが、若年層以外にも違法ダウンロードの啓発を行うことも検討。また、結果を踏まえて「動画サイトとどのように付き合っていくか、業界レベルで検討していきたい」との考えを示している。