北海道大学(北大)大学院情報科学研究科の岡本淳准教授らの研究グループは、光の位相と振幅分布の計測を、高速・高精度に実現する新たな方式を提案し、その装置の実証に成功したことを明らかにした。

観測対象の位相を精密に測定するためには、位相の異なる干渉光を用いる位相シフト干渉計測法が有力な手法となっている。位相シフト干渉計測法を大別すると、可変位相シフタによって干渉光の位相を変化させ、複数回の計測を行うシーケンシャル方式と、空間位相フィルタを通した信号光(または干渉光)を用いて1度の計測を行う並列位相シフト方式に分けられる。

シーケンシャル方式の場合には、複数回の計測が必要なため、観測対象の時間的な変動に対して、計測誤差が生じる。また、並列方式の場合では、空間位相フィルタの異なる位置を通過した信号を用いて、元信号を推定するため、観測対象の空間的な分布に対して、計測誤差が生ずることになる。加えて、これらの従来法では、位相を制御するためのピエゾ素子や特殊な空間位相フィルタなどの高精度な素子が必要であり、そうした高精度な素子や位相制御を要せずに、検出精度と検出速度を両立できる光の位相分布の計測法が求められていた。

今回、研究グループでは、ハーフミラーと偏光素子を組み合わせることで、空間的に位相の異なる干渉縞を瞬時に生成する方法を確立し、これを空間的に分散配置した複数のCCDカメラによってダイバーシティ計測し、元信号の空間的な位相と振幅分布を高速・正確に復調する手法「ホログラフィック・ダイバーシティ干渉法」を考案した。同干渉法では、ピエゾ素子を用いた位相計測で必要とされた複数回の計測を1度に行うことができ、また、空間位相フィルタによる位置ずれを起こすことなく同一位置の元信号を観測するため、空間的な誤差が生じず、高速・高精度な位相分布と振幅分布の同時検出が可能となる。

図1 ホログラフィック・ダイバーシティ干渉計の概念図。ハーフミラーと偏光素子を組み合わせることで、空間的に位相の異なる4つの干渉縞を自動的に生成し、2台のCCDカメラで検出することができる。図中のαは干渉縞の位相を表している。CCDカメラからの情報を元に被検出信号の空間的な位相と振幅分布を高速・正確に復調することができる

今回行った実験では、まず、位相変調と強度変調を組み合わせた空間直交振幅変調信号を2台の空間光変調器(SLM)によって生成。生成した信号を、2台のCCDカメラを用いたホログラフィック・ダイバーシティ干渉法によって計測し、元信号の位相と振幅をエラーなく復調できることを実証した。

同成果により、位相変調と強度変調を組み合わせた多値信号を空間並列的に入出力することが可能になり、1つのメモリセルに数10~数100通りの情報を記録できる高性能な光メモリの開発が可能になる。

同手法は、精密な位相の調整を要することなく、簡易な光学系によって高速・高精度な光計測が可能になるが、研究グループとしては、応用分野としては光メモリに限定されものではなく、生体・医療計測、材料計測、情報通信機器などのさまざまな分野に応用・展開が可能であるとしている。