東北大学ニュートリノ科学研究センターを中心とし、東京大学数物連携宇宙研究機構、米国の12の研究機関、オランダの研究機関からなる国際共同研究グループ「カムランドコラボレーション」は、神岡鉱山の地下1000mに設置され、直径18mの球形タンク内壁に張り巡らせた光センサである液体シンチレータ反ニュートリノ観測装置「カムランド」での長期観測により、地球内部の放射性物質起源反ニュートリノの測定精度を改善させ、地表での熱流量との比較から、放射性物質が地熱の生成に占める割合は半分程度であるということを実測し、地球形成時の原始の熱が今も残っていることを示した。同成果は、「Nature GeoScience」(電子版)に掲載された。

地熱は、地磁気生成やマントル対流、ひいては地震や噴火の原因であり地球のダイナミクスを理解する上で重要なほか、宇宙の塵から現在の地球へと形成・発展していく過程でも重要な役割を果たしているが、地球内部の熱生成を直接調べることは難しく、主要な熱源と考えられていた放射性物質が地熱の生成に占める割合は、隕石測定などの間接的な手法に頼らざるをえなかった。一方、カムランドによる原子炉反ニュートリノ観測でのニュートリノ振動の研究により、反電子ニュートリノの伝搬が解明され、これにより、ニュートリノの高い透過性を利用して、光で直接観測することの出来ない天体内部の観測へのニュートリノの応用が考えられるようになってきた。

地球内部に分布し熱生成の原因となる放射性物質ウラン・トリウムも、反電子ニュートリノを放出する。反電子ニュートリノに特別の感度があるカムランドは、2005年に地球反ニュートリノ観測に成功し、新分野である「ニュートリノ地球物理」を開拓していた。

今回、研究グループではカムランドを用いて、継続的にデータを蓄積すると共に、大規模な液体シンチレータの蒸留により放射性不純物からのバックグラウンドを20分の1にも低減し、地球ニュートリノ観測の精度・感度を向上させた。今回の成果では、これまでに蓄積した合計7年8カ月分のデータを解析し、106+29-28の地球反ニュートリノ事象を観測した。

図1 地球反ニュートリノ観測結果。赤線は地表の熱流量がすべ全て放射性物質起源であった場合の地球反ニュートリノ流量(ニュートリノ振動の効果は考慮済み)。観測点(誤差棒付き黒点)は、明確に赤線より低い値を示している。左図aでは、地殻とマントルのモデル予測も併記してあるが、観測データと良い一致を示している。右図bは、マントルからのウラン・トリウムの寄与だけを取り出したもの。地球反ニュートリノ流量から逆算したマントルでのウラン・トリウムの熱生成量が10兆ワットであり、地殻のウラン・トリウムから7兆ワット、またカリウムなどから4兆ワットの熱生成があり、放射性物質起源の熱生成は合計21兆ワットであることが判明した

この事象数は、すべての放射性物質を考慮すると21兆ワットの放射性物質起源の熱生成に相当し、隕石の分析結果にもとづいた地球進化モデルの推定値20兆ワットとほぼ一致するとともに、地表での熱流量44.2兆ワットと比べて半分程度にすぎないことを意味する。また、これは地球反ニュートリノ観測により、地球の誕生・発展の理論や現在の地球のダイナミクスの理論に対する直接的な測定による強い裏付けが与えられたほか、地熱の生成源をすべて放射性物質に求める理論(fully radiogenic model)を排除したことを意味する。

図2 熱収支の概念図。おおまかには、地表での熱流量(地球が宇宙に放射する熱量)44.2兆ワットから放射性物質起源の熱生成21兆ワットをひいた残りが地球形成時の原始の熱となる

この結果、地表での熱流量から放射性物質起源の熱生成を差し引いた残りは地球形成時の熱であり、原始の熱がいまも残存し、地球が徐々に冷えているということが自然に導出されることとなった。

なお、研究グループでは、今後は、さらに観測精度を高めることで、マントルの一様性などの詳細な地球内部の解明が進むのではと期待を寄せている。