トムソン・ロイターは、同社が発行する研究科学分野の報告書「グローバル・リサーチ・リポート」として「材料科学」版(Global Research Report:Materials Science and Technology)を発表した。

同リポートは、これまで同社が国・地域別に発表していた10本の調査報告書の続編として発表されたもので、同社の「Web of Knowledge」プラットフォーム上で使用する学術文献引用データベース「Web of Science」のデータを用いて、世界化学年(International Year of Chemistry)に合わせて作成・発表されたもの。

過去10本の報告書では、日本を含む特定の国や地域における科学研究、共同研究の推移、ならびに世界の科学研究に占める地位などを、論文や引用データから分析していたが、今回の報告書では、切り口を分野別に据えなおし、日本のお家芸とも言われ、製造業において革新的な製品を生み出す可能性から、多くの国々で主要研究分野となっている「材料科学」を取上げたものとなった。

主な調査所見として、急激な成長を遂げつつある材料科学分野の論文の多くが、アジア・太平洋地域、特に中国から発表されていることが挙げられる。中国は、2003年に日本を、2005年に米国を抜き、同分野の論文数で世界一となっており、この中国の躍動が、アジアを牽引した形となっている。その結果、アジア・太平洋地域が同分野で躍進を果たすこととなり、EUなどの他国・地域のシェア低下を招く結果となった。

材料科学分野の国別論文数推移

日本の研究機関を見ると、論文数では世界トップ20機関中7機関で、被引用数では5機関がランクインした。論文数では東北大学が国内1位(世界3位)、続いて産業技術総合研究所(世界7位)、物質・材料研究機構(世界8位)となっており、被引用数でも、東北大学(世界3位)、物質・材料研究機構(世界4位)、産業技術総合研究所(世界6位)などとなっている。

世界の研究機関別 論文数と被引用数のトップ10機関

また、論文の影響力の指標となる「平均引用数(被引用総数を総論文数で割った数値)では、米国は中国の2倍ながら、アジアの研究者の経験値が高まり、専門知識を積んできていることから、アジアと欧州および北米の差は縮小傾向となっている。このアジア・太平洋地域の論文数と被引用数だけを見ると、中国、日本、シンガポール、韓国の学術機関からの発表が、その他のアジア・太平洋諸国を大幅に上回っているという。

さらに、過去5年の材料科学分野の先端研究領域(リサーチフロント)リスト上位を調べたところ、グラフェンの電子物性、ポリマー太陽電池、強磁性材料および電気磁気材料などが挙げられた。これらは、材料科学分野が分野横断的な特性を持っており、その領域が化学、物理学、工学、生物医学にまで及ぶことを裏付けていると同社では説明している。加えて、同社では最近になって論文数が急激に増加している研究領域である、グラフェン、金属-有機構造体(metal-organic frameworks)、電気紡糸ナノ繊維状骨格(electrospun nanofibrous scaffolds)の分析も同報告書にて行っており、これらの材料の利用や開発を進めることで、電子技術、エネルギー貯蔵、医用生体工学に新たな息吹がもたらされる可能性がでてくるとしている。