日本とニュージーランドなどの共同研究グループであるMOA(Microlensing Observation in Astrophysics)グループは、これまで理論的に予想されていた恒星の周りを廻らず宇宙空間を浮遊する「浮遊惑星」の存在を観測により確認し、恒星(主星)の周りを回る惑星と同程度、もしくは普通の恒星の約2倍(少なくとも同程度)存在しているとの予想を発表した。

今回の研究成果は、日本の大阪大学、名古屋大学、甲南大学など5機関、ニュージーランドのオークランド大学、カンタベリー大学、マッセイ大学、ビクトリア大学、米ノートルダム大学のMOAグループおよびOGLE(Optical Gravitational Lensing Experiment)グループのポーランドのワルシャワ大学の39名からなる国際共同観測研究チームによるもの。

1995年に太陽系以外の惑星(系外惑星)が初めて発見されて以来、これまでに500個以上の系外惑星が発見されており、そのほとんどは、我々の太陽系の惑星の様に恒星の周りを回っている。これはこれらの惑星が、その公転の反動で中心にある主星が"ふらつく"ところをとらえる「視線速度法」や、惑星が主星の前を横切る時の減光をとらえる「トランジット法」など、主星に現れる惑星の小さな影響を間接的にしか観測できないためである。

しかし、恒星の周りを廻らず宇宙空間を浮遊する「浮遊惑星」では、主星を用いた間接的検出ができなかったため、発見が困難であった。近年、星が形成されている領域で非常に若くまだ高温なためにわずかな光を放っている浮遊惑星候補が直接検出され始めているが、質量の不定性は非常に大きく、その存在量はまだ分かっていなかった。

MOAグループはこれまでも、アインシュタインの一般相対性理論が予言する「光が重力によって曲がる」と言う性質のために起こる「重力マイクロレンズ現象」を利用した方法で系外惑星の探索に取り組んできた。

ある星(背景光源)の前を偶然別の星(レンズ天体)が横切るとレンズ天体の重力によって背景光源からの光はあたかもレンズを通ったかのように曲げられて集光し、突然明るくなった様に見える(増光現象)。普通の星がレンズとなると20日程度の間に、単調に明るくなり、また同じ時間をかけて元の明るさに戻っていく。しかし、もしこの星(主星)の周りに惑星があると、その惑星の重力の影響で単調でない増光が余分に加わることとなり、この余分な増光を見つける事で、そこに惑星がある事が分かる。この原理を利用して2003年、主星を伴う系外惑星を重力マイクロレンズで発見、2005年には地球の5.5倍と当時最も小さい系外惑星を発見した。現在までに、12個の系外惑星が見つかっており、惑星分布の重要な情報が得られている。

増光期間はレンズ天体の質量の平方根に比例するため、もし主星が存在せずに惑星のみがレンズ天体となると、主星による長い増光はなく、増光期間が1~2日程度の非常に短い増光現象となるため、こうした増光期間の短い増光現象を見つける事で、そこに惑星質量の天体がある事が分かる。同方法は、従来の方法の様に主星や惑星からの光を必要とせず、惑星の重力を検出するため、浮遊惑星を発見可能にする方法となるが、重力マイクロレンズ現象は100万個の星を見て1個起こる程度とごく稀な現象であり、数千万個の星を日夜監視する必要があることに加え、1~2日の増光現象を観測するためには1日10回以上の高い頻度で観測する必要があり、これまでは技術的に不可能であった。

MOAグループは、1995年からニュージーランドのMt.John天文台の61cm望遠鏡で重力マイクロレンズ現象による系外惑星探査を行っており、2005年には同天文台にMOA-II 1.8m広視野望遠鏡を建設し、2006年4月より銀河系中心バルジ内の星約5000万個を毎晩定常観測することで、毎年約500個の重力マイクロレンズ現象による増光現象を検出してきた。特に広い視野を利用し、これらの星を毎晩10回から50回と非常に高い頻度で観測する事で、世界で初めて1日程度の短い増光現象を検出する事が可能となった。

今回の発見は、2006年から2007年の観測データを解析した結果、増光期間が2日以下の増光現象を10例検出した。増光期間の短さから、これらの増光を引き起こしたレンズ天体は、木星質量程度の浮遊惑星である事が判明した。これらの惑星の内いくつかは、軌道半径が非常に大きくて主星が検出できないだけである可能性は排除できないが、他の観測から、この様な軌道半径が非常に大きな惑星はあまり存在しない事が分かっているため、10個の内ほとんどは主星に付随していないと考えられるという。

発見された木星質量の浮遊惑星のイメージ。主星からの光がないため、非常に暗い。この様な暗い惑星が恒星と同じくらい、宇宙空間を彷徨っている。背後は銀河系中心部(出所:名古屋大学太陽地球環境研究所Webサイト。Artwork by Robert Hurt)

しかも、この検出数の多さから、この浮遊惑星の数は、主星の周りの回る惑星と同程度、もしくは普通の恒星の約2倍(少なくとも同程度)と非常に多い事が判明。この結果、我々の銀河系内にこうした浮遊惑星は数千億個程度は存在するものと予想されるとする。

発見された木星質量の浮遊惑星のイメージ。惑星の重力によって背後の銀河系中心内の星の光が曲げられアインシュタイアークと呼ばれるイメージを作る(黄色の円弧)。アークの大きさは非常に小さく分解して形を見る事はできないが、増光現象として観測される(出所:名古屋大学太陽地球環境研究所Webサイト。Artwork by Jon Lomberg)

また、これらの浮遊惑星がどの様に形成されたかは、2通りの説が考えられるという。1つ目は、星や星になり損ねた褐色矮星と同じ様に、宇宙空間でガスやチリが集まってできると言う説。しかし、この方法で木星質量程度の小さな天体まで形成できるかどうかは、懐疑的なことに加え、もし現在の星や褐色矮星と同じように浮遊惑星ができたとして、天体の質量の分布(質量関数)が惑星質量まで同じ様に続いていると仮定しても、今回発見された10例の増光現象の内1、2例しか説明する事ができまないという。

2つ目は、普通の惑星と同じ様に、星の周りの原始惑星系円盤で形成され、その後、他の惑星と重力的に相互作用をして軌道が不安定になり、外に弾き跳ばされたと言う説。この様な惑星同士の相互作用を示す事例は複数観測されており、今回発見された浮遊惑星は、この説の方が上手く説明できるかもしれないと研究グループは説明するが、もしかするとこれら2つの説のどちらも作用している可能性も有るとする。

また、MOAグループは、現在の観測では、まだ木星質量より小さな天体を検出する事はできないが、地球質量の惑星は木星質量の惑星より弾き跳ばされ易いため、今回発見された天体よりもはるかに多く浮遊惑星として存在しているかもしれないとする。地球質量の浮遊惑星にも生物がいるかもしれないと予測する科学者もいるほか、もし、地球質量の浮遊惑星が水素の厚い大気を持っていれば、惑星中心部にある放射性物質からの熱や、惑星形成時の熱の残りが、温室効果で保たれて氷の殻の下に液体の水が存在するかもしれないとしており、この様な地球質量の浮遊惑星は、NASAが2020年頃に打ち上げを計画しているWFIRST宇宙望遠鏡で実際に検出が可能になるという。

なお、今回発見した浮遊惑星は、主星の軌道上に生き残った惑星だけではなく、これまでにどれ位の惑星が実際に形成され、その後どうなったかに関しての情報を得る事ができると言う点で、惑星形成過程の解明に重要なものとなることから、解明を進めることで、宇宙で惑星がどの様に生まれ、我々の太陽系の様な惑星系がどれ位存在するかなどの謎が解明される日が早まるものとの期待を研究グループでは示している。