東京工業大学の広瀬敬教授、野村龍一大学院生らは海洋研究開発機構、台湾の國家同歩輻射研究中心などと共同で、地球の下部マントルにおけるマグマの化学組成や密度を解明し、マントル深部のマグマは周囲の岩石より重いことを突き止めた。同成果は英科学誌「Nature」(電子版)に掲載された。

一般に液体のマグマは固体(岩石)のマントルよりも軽いため、マグマは地表へ向かって上昇し、火山を形成する。しかし液体のマグマは岩石よりも圧縮されやすい上、マグマは岩石よりも鉄分に富む傾向があるため、マントル深部においては重たいマグマの存在が示唆されていた。

また、マントルの底には地震波の超低速度域が観測されることが知られており、同超低速度域の成因として、重たいマグマがマントルの底に存在している可能性が指摘されていたが、マントル深部は超高圧・高温下にあるため、そのように重たいマグマの存在を実験で確かめることは困難であり、マントル深部にマグマが存在し得るかどうかについては、これまで推測の域を出ていなかった。

図1 マントルの底の地震波の超低速度域。赤は観測されるところ、青はされない領域を示す(出所:東工大Webサイト)

研究グループはマントル深部に相当する超高圧超高温環境をつくり出す実験装置「レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル」を開発し、超高圧超高温実験をこれまで行ってきた。

図2 超高圧発生用ダイヤモンドアンビル装置。マントル物質を2つのダイヤの間に挟み、超高圧下でレーザー加熱を行って、実験室でマグマを作る

今回研究グループは、東工大および大型放射光施設「SPring-8」において、160万気圧・摂氏4000度までの高圧高温下で、ケイ素・マグネシウム・鉄の酸化物を主成分とするマントル物質を部分的に融解させてマグマを作る実験を行い、マントル深部のマグマの化学組成を決定することに成功した。

この結果、深さ約1800kmに対応する75万気圧付近で、融け残りの固体マントル物質中の鉄分が急に乏しくなる一方、融けてできたマグマ中の鉄分が上昇することが明らかになった。

さらにSPring-8の台湾ビームラインにおける測定に基づき、マグマに含まれる鉄イオン中の電子の配置が高圧下で変化したことにより(スピン転移)、鉄はマグマに入りやすくなったことを突き止めた。

これらの実験で得られた化学組成からマグマの密度を計算すると、深さ1800kmを境に、マグマが周囲の固体マントル(岩石)よりも重くなることが分かった。これは、深部マントルでは、マグマは下へ沈むことを意味している。

図3 マントル深部における固体マントルとマグマの密度変化。深さ約1800km以深では、マグマが鉄分に富むようになるため、マグマの密度が急に大きくなり、周囲の固体マントルと密度逆転を起こす

地球が誕生して間もない頃、地球表層はマグマの海(マグマオーシャン)に覆われていたとされているが、今回の成果は、そのようなマグマの海は、地球表層部のみならず、岩石マントル下にも広がっていたことを強く示唆する結果となる。

図4 原始地球におけるマグマの海とその後の変化。原始地球において、固体(岩石)マントルの下に広がっていた重たいマグマの海は、ゆっくりと冷却され、現在でもわずかに残っている可能性が高い。それが地震波の超低速度域としてマントルの底に観測される

過去に行われた計算では、固体マントル下のマグマの海が固化するスピードはかなり遅く、そのため、今でもマントルの底に重いマグマがわずかに残っている可能性が高いという。現在マントルの底に観測される地震波の超低速度域は、このような太古のマグマの海の名残りと考えられると研究グループは説明している。

なお、今回開発した超高圧高温実験技術により、マントル深部のマグマの研究が可能になったことで、今後は、マグマの海の形成・固化プロセスを詳細に調べていくことが可能となり、それにより地球の初期進化に関する理解が促進されるものとの期待を研究グループは示している。