宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月22日、2006年1月24日に打ち上げられた陸域観測衛星「だいち」(ALOS)が、急な発生電力の低下とともに、軽負荷モード(LLM)に移行し、制御不能な状況に陥っていることを発表した。「だいち」の設計寿命3年、目標寿命5年で、すでに寿命を超えて運用され、3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)でも被災地の状況確認のために400枚以上の撮影を行うなど災害観測などで活用されていた。

JAXAでは、搭載観測機器の電源がオフ状態になり「だいち」がLLMモードに移行してることを22日7時30分(日本時間)ころに、データ中継衛星「こだま」(DRTS)による中継データから確認した。

その後、詳細な調査を実施、4月22日3時44分~同58分(ユニバーサル時間:UT)の期間、サンチャゴ地上局において、HKRDI(データレコーダ)のダウンリンクを実施、異常発生時のデータなどの取得に成功。併せて搭載されている各種観測機器(PRISM/AVNIR-2/PALSAR)やサバイバルヒータなどを止める指示が出された。

運用の経緯・状況。ALOSの定常運用実施中、4月21日21時41分(UT)にALOSが軽負荷モード(LLM)に移行した

取得したデータを解析した結果、4月21日21時41分10秒(UT)ごろにLLMが発生したことが確認された。

ALOS LLM移行地上位置

具体的には、通常時であれば8000W程度まで発電できる太陽電池の発生電力量が、日陰明け(21:38:50、UT)から2分20秒後に一気に3800W程度まで降下、異常として「だいち」が判断しLLMへ移行した。その後、一度は7000W程度に戻ったものの、徐々に発生電力は落ちてきており、22日4時29分~5時19分(UT。日本時刻では13:29-14:19)の時点では0Wとなり、以降、回復のためのコマンドは送っているものの、回復していないという。

発生電力の経緯

このため、4月22日19時(日本時間)時点でバッテリによる運用を行っているが、「バッテリモードに移行してから、かなりの時間を経ており、何時、『だいち』が動作できなくなるか、いつ通信が途切れてもおかしくない状態」(JAXA 理事 宇宙利用ミッション本部/本部長の本間正修氏)としている。

JAXA 理事 宇宙利用ミッション本部/本部長の本間正修氏(右)とJAXA 宇宙利用ミッション本部 GCOMプロジェクトチーム ミッションマネージャの伊藤典政氏(左)。筑波宇宙センターより中継で参加した

18時25分(日本時間)ころから、再び回復作業を進めているが、回復は難しいとの見方をしており、「だいちは国内外の多くの人に活用してもらい、非常に役にたった観測衛星だと思うが、今後の活躍も期待されていたことも事実。そういった意味では、こうなってしまったことは残念な状況」(同)としている。

JAXAとしては、チャンスがある限りは回復の努力を続けるとしつつ、より詳細な状況分析のためにさらなるデータの取得を目指す運用を行っており、だいちからの電波が届かなくなるまで運用を継続する予定。

仮に、電波が途絶した場合、運用終了となるが、「だいちの高度は700kmで、大気の影響はほぼ受けない高さ。そのため、すくなくても10年以上は大気圏に突入することはない」(JAXA 衛星利用推進センター防災利用システム室 室長の滝口太氏)としている。

JAXA 衛星利用推進センター防災利用システム室 室長の滝口太氏(右)とJAXA 宇宙利用ミッション本部 ALOS-2プロジェクトチーム プロジェクトマネージャの大澤右二氏(左)

なお、だいちの後継機となる「だいち2」(ALOS-2)は、現在、詳細な設計が進められているのと並行して、エンジニアリングモデルの開発がほぼ終了しているとのことで、2013年の打ち上げを目指して製造を行っていく計画。「その中で、今回の電力異常についての原因究明の結果も取り入れていく」(JAXA 宇宙利用ミッション本部 ALOS-2プロジェクトチーム プロジェクトマネージャの大澤右二氏)と、今回の経験を生かすという。

だいちは、その設計当初より商用利用などを想定して開発された機体であり、JAXAにとっても宇宙利用をプロジェクトとして成功させた衛星の1つ。打ち上げてから5年3カ月の間、東日本大震災の撮影のほかにも、各種の災害監視で活用され、政府の防災機関どの連携なども進められた。

また、国土地理院の地図としての活用も当初からの想定として含まれており、1/25000のサイズの地図はだいちを活用して作成することが前提となっていた。

なお、JAXAとしては今後、取得されたデータなどを元に原因究明を進めていく計画としている。