4月12、13日の両日、北京で開催されたIntel Developer Forum(IDF)において、Hybrid Power Boostというテクノロジが発表された。

CPUの全コアが動いていない状態で冷却や電源容量に余裕がある場合、仕事をしているコアの電源電圧を上げ、クロックを上げるターボブースト(Turbo Boost)という技術はCore i7とCore i5プロセサでサポートされている。

Nehalemアーキテクチャを採用したCore i7/i5プロセサでもターボブーストは存在したが、以下の表に示したSandy BridgeアーキテクチャのCore i7-2xxxとi5-2xxxモバイルプロセサではパッケージの温度上昇のタイムラグを利用した短時間のTDP以上の消費電力を許容するターボブーストが可能となった(ターボブースト2.0)。その結果、以下の表にみられるように、Sandy Bridgeのターボはベースクロックに比べて0.6~1.0GHzとNehalemに比べて大幅にクロックを引き上げることができるようになった。

なお、Nehalemまではバスクロックが133.3MHzであり、CPUクロックはその倍数で2.667GHzなどと半端な数字であったが、Sandy Bridgeではバスクロックは100MHzとなりCPUクロックはキリの良い数字となっている。

LINPACK性能を計測したり電界や磁界を計算するフィールドソルバなどのヘビーな数値計算をするならともかく、ノートPCの場合、連続的にヘビーにCPUを使うことは稀である。ビデオのトランスコーディングは典型的なヘビーな処理であったが、Sandy Bridgeでは専用のビデオエンコーダとデコーダハードウェアが組み込まれているので、これもヘビーな処理では無くなってしまった。

ターボ状態が70%以上となる約60万回のワークロードをIntelが調査した結果では、継続時間が 2秒間以下というものが50%で、87%のワークロードが10秒以内で終了しているという。つまり、通常のPCのプロセサは、大部分のケースは数秒間高速で動けば良い。

図1 IntelのSandy Bridgeに実装されているTurbo Boost Technology 2.0

図1に示すように、ターボブースト2.0では、スリープ、または低電力の状態からターボのC0状態に移行すると、消費電力はTDPより大きくなる。しかし、パッケージの熱容量があるので、チップの温度は赤い破線のようにゆっくりと上昇することになる。そして、チップの温度が上限に近付くと、クロックや電源電圧を落として許容チップ温度を超えないように制御する。このため、ワークロードの継続時間が短ければ、そのワークロードはターボ状態の高いクロックで実行することができ、ユーザの感覚としてはPCがサクサク動くということになる。

また、Sandy BridgeではGPUを同一チップに集積しており、CPUとGPUの消費電力の合計がTDPの制限枠となっている。従って、GPUが電力を食っていないときには、その電力をCPUに回すという融通ができ、ターボが動ける場合が広がっている。

デスクトップの場合は一般に電源に余裕があるのでこれで良いのであるが、ノートPC、それも軽量のノートPCの場合は電源の問題がある。ターボブーストの場合、クロックを上げ電源電圧を上げるので、数秒の短時間とは言えTDPより大きな電力を供給する必要がある。しかし、ACアダプタの定格はTDPに沿って決められており、できるだけ小型軽量にしたいので、ターボブースト2.0で必要になる電力を供給する余裕はない。そこで登場するのがハイブリッドパワーブーストテクノロジである。

ノートPCのACアダプタは約20Vの直流を出力する。そして、この電圧をマザーボードのDC/DCコンバータに供給する。ノートPCの電源回路は図2に示すようになっており、電力に余裕のある場合はBuckコンバータで電圧を下げ、図中3のMOSトランジスタスイッチをオンにしてバッテリにも充電を行う。このバッテリの電圧は6セルの場合は7.2V、9セルの場合は10.8V程度である。

図2 ノートPCの電源系統

そして、AC電源に接続されておらずバッテリで動作させる場合には図中3のスイッチをオフ、図中4のスイッチをオンにしてバッテリからマザーボードへ電力を供給する。このため、マザーボードに搭載されているDC/DCコンバータは20V入力でも10V程度の入力でも動作できるようになっている。

このようにACアダプタの出力電圧とバッテリの電圧は違っているので、そのままではACアダプタの供給電力が不足するからと言って、バッテリから電力を供給することはできない。

図3 ハイブリッドパワーブーストではバックコンバータを逆に動作させてバッテリの電圧を昇圧しACアダプタを補助する

これを図3のように、まず、赤線のようにバッテリから電流を流してインダクタにエネルギを蓄積する。そして、スイッチを切り替えて図3の2をオフ、同1をオンにすると、インダクタは電流を流し続けようとするので、青線のように電流が流れる。この同1、2のオンオフを適当な頻度で繰り返せば、バッテリの電圧が昇圧されてACアダプタの出力を補助することができる。これがハイブリッドパワーブーストの仕掛けである。そして、この技術を使えばACアダプタの定格をターボ状態の必要電力にあわせて大きくしなくても済む。

ここで気になるのが、ハイブリッドパワーブーストでバッテリを使うと充放電回数が増えてバッテリの寿命が短くなってしまうのではないかということである。これについてもIntelは実験を行っている。

1分間程度ターボ状態として、ACアダプタからは58W、バッテリから12Wを供給する状態を続け、その後、1分程度アイドル状態にするというサイクルを15回繰り返してバッテリを5%程度放電させる。そして、バッテリをフル充電まで回復させるという操作を1日に16回繰り返す。そして1日の終わりには完全に放電させてバッテリの実容量を測定する。

一方、対照サンプルとして、同じバッテリを100%充電した状態のままで置き、1日の終わりに完全に放電させて実容量を測定する。

図4 ハイブリッドブーストのバッテリ寿命に与える影響

これを繰り返した結果が図4である。160日あたりまではどちらも同様にバッテリの実容量が減少しているが、その後はハイブリッドパワーブーストを使った2個のサンプルの方が、100%充電のままで置いていた2個のサンプルより若干ではあるが寿命が長くなっている。この実験から、ハイブリッドパワーブーストを行って5%程度のバッテリの放電を繰り返しても寿命にはネガティブな影響はないと言える。

ということで、ターボブースト2.0を使うとクロックが上がってノートPCがサクサク動き、ハイブリッドパワーブーストテクノロジと組み合わせることでACアダプタも大きくせずに済むことになる。そして、バッテリの寿命も多少は伸びるとなると良いことずくめである。なお、Intelのマーケティング戦略であるが、ターボブーストはCore i3プロセサではサポートされていない