宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2011年3月11日14時46分頃(日本時間)に発生した東北地方太平洋沖地震の影響を調査するため、3月15日21時56分頃に陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR:パルサー)による現地の緊急観測を実施した。同観測では2010年10月28日に同じ軌道から取得した画像と比較し、地震に伴った地殻変動の検出を試みた。なお、今回の観測結果は即時軌道情報を使用しており、軌道誤差の影響を含んでいる可能性があるとしており、今後高精度軌道情報を入手し次第再解析を行う計画としている。

図1は、今回観測した地域の全体図で、青枠で囲んだ範囲が図2で示すPALSAR観測領域を表している。また、赤い星印は今回の地震の震央位置を示している。

図1:全体図(数値標高データはSRTM3を使用)

具体的には地震に伴う地殻変動を検出するため、地震前後に取得したPALSARデータの差分干渉解析(DInSAR解析)を行った。図2左は地震前(2010年10月28日)と地震後(2011年3月15日)のPALSARデータから得られた差分干渉画像(地殻変動図)、図2右は地震後に観測されたPALSAR画像です。図2左の差分干渉画像中、ほぼ全体に多くの干渉縞(虹色の縞々)が確認でき、広範囲に渡って地殻変動があったことが分かる。

また、震央に近い海岸部では干渉縞が混んでおり、これは大きな地殻変動があったことを表している。この干渉画像から、宮城県北部沿岸(石巻市周辺)で少なくとも3m以上の衛星から遠ざかる地殻変動(沈降や東方向へのずれ)があったことがわかる。

図2:左がPALSAR差分干渉画像(地殻変動図。右が地震後に観測されたPALSAR画像

さらに同じ地域の地震前後の変化抽出を行った。図3は、PALSARでの災害前の2010年10月28日観測の画像を赤に、災害後の2011年3月15日観測の画像を緑と青に割り当てたカラー合成画像。図3中の図4(a)および(b)の領域において、沿岸部の変化を確認した。

図3:PALSAR災害前後のカラー合成画像全体図

図4:沿岸部の画像(R:地震前、GB:地震後)

図5は青森県から宮城県の各地の拡大図(被災域を強調するため色調を補正したもの)。図5(a)は青森県八戸市付近、 (b)は岩手県大船渡市付近、(c)は岩手県陸前高田市付近、(d)および(e)は宮城県気仙沼市付近、(f)は宮城県本吉町付近、(g)は宮城県南三陸町付近、(h)は宮城県女川町付近、(i)は北上川流域、(j)は宮城県石巻市付近の拡大図。各地の海岸付近の赤色の箇所は災害後に反射が弱くなったところで、津波により冠水している(3月15日時点)と考えられる。

図5(a):青森県八戸市付近(約12km四方)

図5(b): 岩手県大船渡市付近(約9km四方)

図5(c):岩手県陸前高田市付近(約8km四方)

図5(d):宮城県気仙沼市付近(大島)(約8km四方)

図5(e):宮城県気仙沼市付近(約7km四方)

図5(f):宮城県本吉町付近(約8km四方)

図5(g):宮城県南三陸町付近(約10km四方)

図5(h):宮城県女川町付近の拡大図(約6km四方)

図5(i):北上川流域の拡大図(約20km×10km四方)

図5(j):宮城県石巻市付近(約12km四方)

なお、JAXAでは今後も「だいち」による当該地域への観測を継続していく予定としており、取得した画像を、内閣府を始めとする防災関係省庁並びに地方自治体などに提供していくとしている。