情報通信研究機構(NICT)は、オプトクエスト、住友電気工業(住友電工)と共同で、光通信において新たに開発した光ファイバ1本で109Tbpsの信号伝送実験に成功したことを発表した。

現在の光通信は、ファイバ線中の1本の光の通路(コア)に、さまざまな光信号を送信する形で行われている。

現在の光ファイバとマルチコアファイバ(現在の光ファイバとマルチコアファイバの断面の概念図。黄色の部分が光の通路であるコア)

光信号は直径9μmのコアに閉じ込められ、コアのエネルギー密度は太陽の表面並みに高く、注入できる信号パワーの限界があり、光信号が歪むことでエラーが生じたり、ファイバが熱破壊を起こす恐れがある。

光ファイバへの注入パワーの限界(信号パワーを上げていくと、非線形光学効果さらにはファイバフューズが発生するため、信号パワーによる伝送容量確保は難しくなる)

そのため伝送方式の開発により、年ごとに増加を続けていた光ファイバの伝送速度は、2001年を境に増加率が鈍り、毎秒100Tbps近辺が限界と考えられていた。

光ファイバ伝送容量の進展(1990年代後半には伝送方式(波長多重分割方式)の開発により急激に伝送容量が伸びたが、2001年を境に増加率が鈍っている)

また、現在の光ファイバ開発当時に、1本のファイバに複数コアをもつマルチコアファイバも考えられたが、それぞれのコアから漏れた信号が干渉しあう、ファイバの結合時にコアがずれるなどの技術的問題があり、マルチコアファイバの開発は進展しなかった。

今回NICTは、技術的に難しいと考えられていたマルチコアファイバの問題を解決し、109Tbps、16.8kmの伝送実験を行い、すべてのコアにおいて良好な通信品質を確認した。具体的には、オプトクエストが開発した「既存の光ファイバ7本を7コアファイバに接続するための7コア同時空間結合装置」と、住友電工が開発した「コアからの信号漏れを大幅に低減した7コアファイバ」を利用し、実験の実証を行った。

今回の実験概要のイメージ図(住友電工開発の7コアファイバとオプトクエスト開発の7コア同時空間結合装置を利用している。光信号変調装置は、NICTと住友大阪セメントが共同で開発した超高速位相変調技術を利用している)

実験の結果、既存の光ファイバで予測されていた物理限界である100Tbps伝送をマルチコア化により突破することに成功し、従来の世界記録69.1Tbpsを上回る109Tbpsを実現し、マルチコアファイバの有効性を明確に示した。

この成果により、さらなる大容量化が見込めるようになるほか、同技術と他の光通信技術の組み合わせで、現在の1000倍以上の通信容量確保が可能になる事が期待出来るとしており、NICTでは今後、マルチコアファイバのさらなるコア数の拡大と実用化をにらみ、産学官連携の取組みを積極的に推進していくとしている。

マルチコアファイバの伝送容量の概念図(光ファイバを道路に、情報(光信号)を自動車にたとえると、従来のシングルコアファイバでは車線を横方向に拡張していく研究開発が行われてきたが、マルチコアファイバを使うと、コア数だけ階層的に車線を増やせる事から現在の1000倍以上の伝送容量が期待できる)