NEC 情報・メディアプロセッシング研究所研究部長 広明敏彦氏

NECは3月7日、大量の果物を写真から高精度に識別できる農作物の照合技術を開発したと発表した。同技術は、指紋および顔認証技術を応用したもので、果物の外観を撮影して、表皮の模様を基に個々を識別する。

同技術の検証のため、約1,800個のメロンを撮影した写真を用いた実験が行われ、100万個を識別可能な照合精度が実現された。

情報・メディアプロセッシング研究所研究部長の広明敏彦氏は、「今回開発した異なる場所で撮影した青果物が同一かどうかを、青果物が持っている生体パターンを用いて照合する技術を、当社では『アグリバイオメトリクス』と名づけた。この技術を用いれば、RFIDタグなどの人工的なタグを使わずに、青果物のトレーサビリティを実現できる。タグが不要ということはコストも抑えられる」と、説明した。

これまで、農産物のトレーサビリティシステムでは、タグを直接埋め込むことができないため、青果物に貼り付けたタグや包装の表記に頼っており、タグのコピーや偽装などの課題を抱えていた。

これに対し、同社が開発した技術では、パターンがランダムで偽装が困難な青果物の表皮の模様をもとにその青果物が同一かどうかを判定するため、タグなしの管理と精度の高い真贋判定を実現する。

「アグリバイオメトリクス」の概要

具体的には、指紋認証技術で培った同社独自のパターン認識技術を応用して開発された「果物の表皮の模様を基に人間には判別が困難な個々の果物を高精度に照合できる技術」と顔認証技術で培った3次元映像認識技術を応用して開発された「農産物の撮影方向を自動的に補正する技術」が用いられている。

「顔の場合、正面がわかるので撮影時に向きを調整することは簡単だが、果物の場合、店舗や栽培現場で撮影方向を固定することは難しい。そこで、手持ちのデジカメや携帯電話のカメラで撮影した写真でも照合できるよう、撮影時に向きを補正する技術を開発した」と同氏。

顔認識を応用した写真を補正する技術は、へたを中心になるように画像を3D回転することで向きを補正する。

NECが開発した写真で青果物を識別する技術の仕組み

同氏は性能検証の結果について、「偽者を本物と間違える確率である『偽者受入率』は100万分の1だったが、本物を偽者と間違える確率である『本物拒否率』は0.4%だった。これは照合技術の特徴であり、特性が生かせる用途を選ぶことが大切」と説明した。

同社は今後、農業現場からマーケティングまで、サプライチェーン全体を支援するクラウドサービスとして提供するなど、同技術の2~3年後の実用化を目指す。

携帯電話で撮影した写真でメロンの照合を行うデモ