日立製作所は、酸化物半導体薄膜トランジスタ(TFT)を用いてRFIDチップを試作、周波数13.56MHz帯で無線動作を確認したことを発表した。

フレキシブルデバイスは、曲げたり変形する部分へ貼り付けたりできる次世代デバイス技術として研究開発が進められているが、日立でもフレキシブルなRFIDなどの無線デバイスの実現に向けた研究として、低温下での製造が可能な高いスイッチング性能を実現できる酸化物半導体TFTに着目し、研究を行ってきた。

具体的には、2008年には酸化物半導体TFTをプラスチックフィルム上に形成し、「完全空乏型酸化物半導体TFT技術」としてTFTが低電圧で動作することを確認したほか、2010年にはガラス基板上に酸化物半導体TFTによる無線整流回路を試作、13.56MHz帯の電波をアンテナで受信し、直流電圧に変換する「整流回路技術」を開発している。

フレキシブルな無線デバイスを実現するためには、上記の技術に加え、酸化物半導体TFTによる論理回路を形成することが求められる。しかし、酸化物材料では、P型トランジスタの作製が困難なため、N型とP型トランジスタを併用するCMOS回路技術の適用が難しいほか、N型トランジスタのみで論理回路を作製した場合、消費電力が大きくなるため無線での電源供給で動作させることが難しいという課題があった。

今回、日立では、N型トランジスタのみで構成しながらも省電力を実現可能な酸化物半導体TFT論理回路技術を開発、ガラス基板上にRFIDチップを試作した。具体的には、トランジスタがオン状態になる電圧(しきい値電圧)を0Vに近い値とし、低電源電圧下での動作を可能とした。また、N型トランジスタのみで構成した論理演算素子に含まれる負荷用トランジスタのゲート電圧を、論理演算素子に入力される電圧に応じて自動的に変動させることで、消費電力を低減させており、これにより試作回路では1つの論理演算素子にあたり、動作電圧5V時で既存回路の1/100以下となる1nAの電流での動作を可能とした。

今回試作したRFIDチップ

加えて、RFID側がリーダ側から電波による電力供給を受けた時点で、これを動作開始命令とみなし、データを送信するという無線通信プロトコルを開発、実装したことで、RFID側で命令を処理する必要が無くなり、プロトコルの実装規模が低減され、低消費電力化が可能となったという。また、RFID側からデータを送信する際に、RFID論理回路の動作クロックに関わる情報を付与して送信することで、リーダ側でデータを読み込む際に、動作クロックの変動により生じる読み取り誤りを抑制することに成功しているという。

なお、同試作チップにアンテナを接続し、13.56MHz帯の周波数で動作検証を行ったところ、40mWの出力において通信距離7cmでの動作を確認できたという。