Xilinxは3月1日(独時間)、同社のFPGA技術にARMアーキテクチャを採用したEPP(エクステンシブル プロセッシング プラットフォーム)の第1弾製品ファミリ「Zynq-7000」を発表した。

Xilinx Worldwide Marketing,Vice PresidentのVincent Ratford氏

Zynqの語源について、同社Worldwide Marketing,Vice PresidentのVincent Ratford氏は「Zync(亜鉛)は、さまざま金属と混ざることでその金属の性能をより引き出すことができる中間材料として用いられている。この製品も、デザイナが機器の性能を最大限に引き出すための間接材料となるようにとの意味を込めてつけた。XilinxのXを用いなかったのは従来とは異なる性質のものであるということを表現したかったから」と説明する。

ちなみに、同社の提唱するEPPはXilinxのFPGAにARMのアーキテクチャを取り入れるというものだが、単なるFPGAの中にARMコアをハードマクロで入れた、というものではない。プロセッサコアやメモリインタフェースなどの部分はもちろん、FPGAの特性を生かしダイナミックにI/Oやインタフェースなど状況に応じて変更が求められる部分との接続にAMBA4 AXI4バスアーキテクチャを取り入れることで、それぞれの用途に応じて柔軟に対応することが可能なバーチャルなASSP(VASSP)としての利用を可能としたデバイスとなっている。

Zynq-7000ファミリのブロック図。左上のProcessing System部分と右および下のProgammable LogicもAMBA4 AXI4バスでつながっており、高速なデータのやり取りが可能。すでに提供済みの同社開発環境ISE12.3よりAXIに対応した開発が可能となっている

今回、Zync-7000ファミリとして発表されたのは、「Zync-7010/7020/7030/7040」の4製品。第1弾製品ファミリなのにいきなり7000番台という数字がついているが、これは「(TSMCの)28nmプロセスを用いたXilinx 7シリーズと同様のプロセス技術を用いて製造されるため」(同)とのことで、7010および7020はArtix-7ベース、7030と7040はKintex-7ベースの製品となっている。

Zynq-7000ファミリ4製品の概要

搭載されるARMコアは4製品ともにCortex-A9 MPCoreが2つ。動作周波数は800MHzを予定しており、NEONなどの拡張にも対応するという。4製品の違いは、ASIC相当ゲート数(430K/1.3M/1.9M/3.5M)、拡張可能ブロックRAM(240K/560K/1060K/1860KB)、ピーク時のDSP性能(58G/158G/480G/912GMSC)のほか、PCI ExpressやMultiスタンダード1.8V I/O、マルチギガビットトランシーバへの対応の有無など。「ベースとなるアーキテクチャは4製品ともに同じであり、ユーザーは用途に応じて最適な製品を選択して活用することができる」とのことで、例えば7010は「コンシューマ製品などでの大量用途を想定したもので、100万個単位での購入で15ドル以下で提供でき、かつ消費電力も2W以下を実現している」とするほか、7020は「各種インタフェースなどを含めた開発キットが500ドル以下で提供できるモデル」としている。

「ZyncはASICやASSPで実現できることはもちろん、FPGAで実現できることやプロセッサでできることをカバーできるようにした製品。ありとあらゆるアプリケーションに用いることができるもので、従来のFPGA以上の市場を獲得できると考えている。これはXilinxにとって大きな好機であり、すでに「ドライバ・アシスタンスシステム」「FA(ファクトリーオートメーション)」「放送用カメラ」の3つの分野のカスタマが開発を進めているが、その他の想定適用分野を含めると将来的には120~130億ドル規模の市場へと成長するだろうと考えている」と同氏は説明する。

Zynq-7000ファミリの各製品が狙う市場分野

ASICはチップコストは安いがマスクコストなどを含めたトータルコストはプロセスが微細化するごとに高くなっており、28nmプロセスでは8000万ドル程度とも言われている。また、I/Oなどはほぼ固定されることから、規格変更などに柔軟に対応することは難しい。Zynqはそうした柔軟性を重視したいという要求に対応するための側面もあり、Xilinx-7ベースのプログラマブルロジックに必要に応じてI/Oやトランシーバを配置することで、それぞれの要求に応じた入出力などを構築することが可能となっている。また、ARMアーキテクチャを採用しているため、「ARMテクノロジーを触ったことがあれば、すでにZynqを使いこなせると思ってもらってよい」としており、すぐにアプリケーションの開発を行うことができるようになっているとする。

ARMプロセッサとプログラマブルロジック間の内部インターコネクトはプロセッシング モデル メモリマップを通じてアクセス可能であり、最大100Gbpsの帯域幅を実現可能。また、アクセラレータとして最大760のDSPを活用することで910GMACの並列処理を実現することが可能となっている。さらに最大12個のトランシーバにより10.3Gbpsで動作可能であり、PCI Express Gen1/2/3などのさまざまなプロトコルに対応することができる。

Zynq-7000ファミリの各種特長

開発環境としては、ソフトウェア側ではARMの提供する各種ツールおよびサードパーティ(パートナー)各社と共同で開発したものが2011年末までには複数登場する予定。一方、ハードウェア側もXilinxの統合開発環境ISEの13でAXI4バス対応の強化が図られるほか、SynopsysなどのEDAベンダも対応を予定している。

製品スケジュールとしては、2011年下期にアーリーアダプタ(α/βカスタマ)向けに提供を開始、一般向けのサンプル提供を2012年に開始するというものとなっており、エミュレーションプラットフォームなども2011年下期には提供を開始できる予定としている。

ザイリンクスの代表取締役社長であるSam Rogan氏

なお、同社日本法人ザイリンクスの代表取締役社長であるSam Rogan氏は、「これまでFPGAはシステムの周辺I/Oなどをメインに担当してきたが、我々としてはこれまでもFPGAがシステムの中心になりつつあるという話をしてきた。今回、プロセッサを取り込んだことで、システムの中心に本当の意味で搭載できるデバイスとなり、日本の組み込み機器ベンダなどでこれまで以上に活用できるようになった。そういった意味でもZynq-7000を、多くの国内企業でイノベーションエンジンとして活用してもらえるように育てていきたい」と意気込みを語ってくれた。