東京大学 大学院工学系研究科の竹内健准教授、慶應義塾大学 理工学部の黒田忠広教授と石黒仁揮准教授らによる研究グループは2月21日、非接触型のSSDメモリの研究開発において、エラーを削減し、電力を半減以下にするデータ変調技術と、伝送線路結合を用いた高速非接触インタフェースを開発したことを明らかにした。同研究成果は、2011年2月20日から24日(米国西部時間)に米国・サンフランシスコで開催されている「国際固体素子回路会議(ISSCC 2011)」で発表される。

NAND型フラッシュメモリを記憶媒体としたSSDは携帯機器やPCで使われているが、研究グループではこれまで、高速なデータ通信を行い、防水機能を備え、接触不良や、動作中の誤った抜き差しなど利用者の誤使用、人体との接触による静電気破壊、使用に伴う劣化に対して高信頼性と安全性を提供できる非接触SSDの提案を行ってきた。

しかし、SSDは使用するにつれてメモリが不良化する、電力が大きいという問題があった。また、(メモリの使用に伴う物理的劣化を抑制する)非接触SSDの通信方式として、コイルの磁界結合を用いた近接通信の非接触インタフェースが研究されてきた。しかし、一対のコイルで2.5Gbpsの通信ができたものの、高速化のためにコイルの数を増やすと、コイルとチップを接続する配線が長くなり、信号が反射して高速伝送が困難になるという問題があった。

今回、東京大学の研究グループは非接触SSDのメモリの信頼性向上技術や低電力技術を、慶應義塾大学の研究グループは非接触SSDとホスト機器間のインタフェースの高速化技術をそれぞれ開発した。

東京大学の研究グループの内容は、SSDに搭載するメモリコントローラ内で、フラッシュ・メモリに書き込むデータを変調することで、エラーを95%削減して信頼性の向上を図るとともに、43%の低電力化を実現したというもの。研究グループでは、今回開発されたシステム技術や信号処理技術は、プロセスの微細化によるメモリの信頼性の低下や消費電力の増大に対応できる解決手段となるものとの見方を示している。

図1 東京大学によるメモリの高速化技術。

上段左図:今回開発したSSDの写真

上段右図:提案する、非対称符号、ストライプパターン除去アルゴリズムを備えた、SSDの構成図。
SSDに搭載されているフラッシュ・メモリでは、半導体素子から電子が漏れ出る現象により"0信号"が"1信号に"変わるというエラーが多く発生する。提案する非対称符号ではSSDに書き込むデータの中で、予め"1信号"の数を増やしておくことで上記現象を回避できSSDのメモリのエラーを95%削減することができる。
消費電力に関しては、従来のSSDでは書き込むデータが"1"と"0"を交互に繰り返すカラムストライプパターンでは最も電力を消費する。提案するストライプパターン除去アルゴリズムではSSDに書き込むデータからカラムストライプパターンを除去することでSSDの消費電力を43%低減する

下段左図:SSDのメモリのエラーの実測結果
提案する非対称符号により、SSDのエラーを95%削減することが確認できた

下段右図:SSDの消費電力の実測波形
提案するストライプパターン除去アルゴリズムにより、SSDの消費電力を43%低減することが確認できた

一方、慶應義塾大学の研究グループの内容は、電界と磁界の結合を用いた伝送線路結合を近接通信に用い、12Gbpsの通信実験に成功したというもの。これにより配線が長くなっても線路に生じる抵抗(インピーダンス)を制御して信号の反射を防ぐことができ、上限の制約なく結合数に応じて通信を高速化することが可能となる。

また、同技術を用いれば磁界結合を用いた無線給電との干渉を小さくできるため、非接触メモリカードのディペンダビリティを向上できると研究グループでは指摘している。

図2 慶應義塾大学による世界最高速級の非接触インタフェース。

上段左図:コイルの磁界結合を用いた従来の磁界結合インタフェース(Inductive-Coupling Link)と、今回世界で初めて開発に成功した伝送線路結合による電界と磁界の結合を用いた伝送線路結合インタフェース(Coupled Transmission Line:CTL)の概念図(左)と周波数特性(右)。CTLでは10GHz以上の広帯域な通信路が実現できた

上段右図:90nm CMOS技術で今回開発した送受信器のICチップ(左)と、フレキシブルプリント基板上に製造した伝送線路結合器(右)。通信距離は1mm

下段左図:データ伝送時の信号実測波形。12Gbpsの転送速度で通信したとき、ビット誤り率(Bit Error Rate:BER)は10-13以下であった(これは1ビットも誤らずに10兆ビット以上を伝送できたことを意味する)

下段右図:電力伝送用コイル(Power Link Coil)の磁界結合を用いて無線給電しながら、伝送線路結合器(CTL)で12Gbpsの転送速度でデータ伝送できることが確認された。無線給電をしている時(グラフの黒色線:Power Link ON)と、していない時(グラフの灰色線:Power Link OFF)で比較して、受信タイミング(X軸)を変えた時のビット誤り率(Y軸)がほとんど変わらないことから、無線給電の影響が小さいことを確認した

今回開発された技術は、SSDを高信頼化、高速化するものであり、研究グループでは今後、SSDの信頼性をさらに高めるシステムを確立し、スマートフォンからデータセンタまで社会に浸透しているさまざまな機器に実装されるSSDの開発を目指すとするほか、伝送線路結合は新規研究領域で大きく発展する可能性を秘めており、学術基盤を構築した上で、多様な電子システムへの実用化を合わせて目指すとしている。

非接触メモリカードが切り開くアプリケーションのイメージ。左図が高信頼な非接触メモリカードによる提案。高速なデータ通信だけでなく、防水機能を備え、接触不良や、動作中の誤った抜き差しなど利用者の誤使用、人体との接触による静電気破壊、使用に伴う劣化に高い信頼性・安全性も確保する。右図が非接触メモリカードが切り開く新しいアプリケーション。メモリカードを携帯電話やテレビ、車、パソコン、音楽機器、デジタルカメラ、ビデオカメラと接触することで、あらゆる機器が"マイPC"として使えるようになる