日本人宇宙飛行士で始めて国際宇宙ステーション(ISS)の長期滞在を果たした若田光一宇宙飛行士が再びISSでの長期滞在が決定したのは既報のとおり。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月17日、記者会見を開催し、若田宇宙飛行士の長期滞在に向けた説明などを行った。

今回のミッションは2013年末から約6カ月の間、第38次/第39次長期滞在クルーとしてISSに滞在することが予定されており、詳細な日程はまだ決まっていないものの、10月から12月末の間にソユーズ宇宙船での打ち上げとなる見込みという。また、最初の4カ月はフライトエンジニアとして科学実験などを行い、残りの2カ月をコマンダー(船長)としての任務につき、ISSクルー全員の安全の確保とミッション遂行の責任を負うこととなる。

米国からの中継で会見に参加した若田宇宙飛行士は、今回の任命について、「今回の決定に尽力してもらった皆にお礼したい」と述べ、「2011年5月には古川宇宙飛行士が、そしてその後には日本の実験棟"きぼう"の建設にも関わった星出宇宙飛行士がそれぞれISSの長期滞在に挑む。日本の宇宙飛行士が次々と宇宙で活躍する時代になった」と、日本人宇宙飛行士が世界規模で進める宇宙開発の一端を担える存在になってきていることを指摘するほか、「HTV(こうのとり)も初号機に続き2号機もしっかりとISSへ届き、きぼうの内外の装置を用いた実験の成果なども出てきている。そうしたハードウェア、ソフトウェアの面も含めて、しっかりと日本が評価されるようになってきている」と人と物の両面で信頼を勝ち得るだけの下地が出来てきたことが、日本人にコマンダーを任せるということにつながったのだと思うとした。

米国ヒューストンからテレビ会議システムを使って会見に参加した若田宇宙飛行士

ISSは米国、日本、カナダ、欧州各国(イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、スペイン、オランダ、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)、そしてロシアの計15カ国が協力して計画を進め、利用している施設。このうち米国、ロシア、欧州の宇宙飛行士がコマンダーとしてISSに滞在した実績があるほか、カナダもすでにコマンダーは任命済みであり、訓練を進めている状況。若田宇宙飛行士はそうした状況を踏まえた上で、「米国、ロシア、欧州、カナダ、そしてISSではないが中国。これらのコマンダーは全員が軍のパイロット出身で、リーダーとしてのカリキュラムも軍の時代から行ってきた。そうした意味では、私は民間出身でありそうした機会はなかったが、JAXAのリーダーシップ訓練や、NASAのスタッフとして学んできたことなどを、宇宙での活動に使えるように努力していきたい」と語る。

また、「この時期にコマンダー就任に決まったことは予想外」とし、その理由を「ロシアや米国はすでに一緒に宇宙に行ったことがある宇宙飛行士がISSへ何度も行っており、世界の宇宙飛行士全体としては真新しいものではないが、日本として、前回のフライト(2009年)からこのスパンで再び宇宙に上がることが決まったのは自分でも驚いている」と表現。「今も日本人の宇宙飛行士候補生が3名、訓練を続けており、新たな日本人宇宙飛行士が次々と誕生しようとしている。そうしたタイミングでこういった任務を与えられたのは、宇宙に行ったことがある宇宙飛行士でなければできない課題を与えられたと思っており、ISSパートナーの1国としてコマンダーを出していなかったのは日本だけなので、そうした側面では重要で、意味があると感じている」と説明した。

会見では、コマンダーにとって必要な条件とは何か、コマンダーとして、どういった人物を目指すか、といった質問も飛んだ。若田宇宙飛行士は、「宇宙飛行士全員にも要求されることだが、適切な状況判断能力とチームワークを重んじる心がリーダーの条件。ISSにはさまざまな運用モードがあるが、それぞれの状況に応じた対応をできるようにするのがリーダーの役割であり、それを実現するためにはコミュニケーションが最重要」とした。このコミュニケーションは、宇宙飛行士間のみならず、地上局のスタッフや実験に関与する研究者達、関連各位などとの連携も重要であるとしており、特に宇宙飛行士間の連携については、「(第19次長期滞在時のコマンダーであったロシアのGennady Ivanovich Padalka宇宙飛行士は)どんなに忙しくても、朝昼晩の食事だけはみんな集まって食事しようということを意識していた。みな忙しいのでISSの中で会わないこともあるが、食事の時間だけは家族の団欒のように顔を合わせて語り合った。そうした顔を合わす機会を使って、コミュニケーションを図っていたことが心に残っている」と振り返り、コマンダーとしてISSの能力を最大限引き出せるように全体でのチームワークを高め、クルー個々の能力を最大限に引き出していくことがコマンダーとしての指名だと思っており、まだ、チームの仲間が発表されていないため、どうするかは決まっていないが、それが決まった段階で、それぞれの宇宙飛行士の長所を生かせるようなスケジュールを立て、チームとして成果を出せるような舵取りをしていきたいと意気込みを語った。

また、自身の前回の長期滞在と今回の違いについては、「前回は、与えられた指令を1つひとつ確実にこなしていく状態だったが、今回、ISSを運用する側の仕事も行い、宇宙飛行士がISSに行く前、滞在中、帰還後などでどういった困難に直面するのか、それをどうクリアさせるのか、そうしたものを学べたことは大きく、確かに大きなチャレンジだったが、訓練とは違った形で有人宇宙飛行士との関わりができたのは非常に大きな経験であった」としたほか、「ISSという現場に戻り、その中でマネジメントをするという新しい仕事に挑戦していくという変化は新鮮な感じ。人間、進歩していくために、不均衡状態をわざとつくることで、進歩していけるのかなという思いもある。宇宙飛行士としてだけではなく、マネジメントという別の観点から、宇宙開発全体を見ることができ、その経験を元に再び宇宙にいくのは、日本の宇宙開発を新しいステップに導くのに役に立つのだと思う」と、今回の経験が自身だけでなく、日本の宇宙開発全体のレベル向上につながるという意味もあるとした。

加えて若田宇宙飛行士は、日本が宇宙開発に携わることについても言及。「毛利、向井、土居の各宇宙飛行士の時代は環境を利用した実験からスタートした。ミッションスペシャリストとして運用や機材の活用などをその後、少しずつ活動領域を拡大してきており、こうのとりも実績を積み、きぼうでの実験成果も世界最高水準のものを提供できるようになってきた。少しずつ日本が信頼感を高めてきており、そうした中で少しずつリーダーシップを発揮しようとしてきており、今回、コマンダーということで、ハードやソフトでの貢献に加え、人的貢献として日本人の顔が見えること、それが今回の搭乗により見せられるようになると思っている」としたほか、「どの国にも共通するが、日本も自国の優れた技術を生かして、世界の中で日本がこの分野で貢献できるようにチャレンジしていく必要がある。宇宙輸送システムによる物資の輸送のほか、衛星の打ち上げ技術もH-IIA/Bで確立しているが、その延長線上にある有人宇宙飛行士を開発することで、より多くの世界の人たちを宇宙に届けることができる。日本はそういうことができるレベルまで高めてきているわけで、難しい課題に見えても、1つひとつ解決していくことができる力を持っている。将来にわたって、技術立国と言うためには、有人宇宙開発は重要なポジション。きぼうで培った有人宇宙飛行の経験とこうのとりによる宇宙航行システムなどを高めていくことで、有人宇宙船の開発へとつなげていくべき」とし、「日本は世界に誇る深宇宙探査技術をはやぶさを筆頭にアピールできてる。そうした技術を持って、世界全体の宇宙探査に貢献できるように協力していく必要がある」と持てる技術力をアピールし、それを有人宇宙開発へとつなげていく必要性を強調した。

なお、最後に同氏は「今回、このようなすばらしい搭乗機会を与えてくれて、関係者に感謝したい。日本人初のコマンダーとして仕事をするが、日本人としての和の心を大切にしてチームをまとめていきたい。メンバー1人ひとりが高い志をもって、ミッションに挑むので、それぞれの目標を理解して、ゴールに導くとともに、チームとしてのゴールを目指す。また、チームとして、1人ひとりをバックアップしていけるように訓練をしていきたいと思う」と、今後に向けた抱負を語ってくれた。