国際大学フェロー 村田真氏。2010年よりIDPF/EPUBワークグループでコーディネーターを務める

都内にて開催された「Adobe Digital Publishing フォーラム 2011」にて、国際大学フェロー 村田真氏によるセミナー「電子書籍の新フォーマット、日本語対応EPUB3.0の詳細解説」が行われた。

電子書籍フォーマット「EPUB」とは、国際電子出版フォーラム(IDPF:International Digital Publishing Forum)が策定している国際的なフォーマットである。村田氏はセミナーで、EPUBの歴史や仕組み、5月に完成すると言われている最新バージョン「EPUB 3.0」の内容を解説した。

既存の技術を組み合わせて作った「EPUB」フォーマット

まず村田氏は、「EPUBとは何か?」を解説した。EPUBは電子書籍のフォーマットであるが、その中で使われている技術は20年も前からあるものだ。例えば文字は「HTML」で、ラスタ画像は「JPEG」、ベクター画像は「SVG」、レイアウトは「CSS」である。これらを「ZIP」で固めたファイルが、EPUBのファイルフォーマットとなっている。唯一、EPUBの「目次」だけは「DAISY」という比較的に新しい技術が採用されているが、それ以外は現在でもWebを中心に広く使われているファイルフォーマットなのだ。

このように、EPUBは特別なライセンスを必要とせずに誰もが作れるため、世界中の出版業界はEPUBに強い興味を示している。村田氏は、「追い風になったのは、2010年に発表されたAppleのiBooksがEPUBをサポートするというニュースです」と業界の動向を話した。iBooksがEPUBのサポートを決定したため、iPadやiPhone、iPod touchを使って気軽に電子書籍を読めるようになる可能性が強くなった。このニュースによって世界の出版業界は大きく動き出し、策定団体であるIDPFに加入する企業が急激に増加したそうだ。村田氏が持参したデータによると、現在会員となっている企業227社のうち、2010年以降に新規参入した企業は74社とのこと。

EPUBが採用されている事例を紹介。韓国ではすでに教科書化も予定しているそうだ

EPUBで作られたコンテンツは、さまざまなデバイスで読める

IDPFに参画している企業のドメイン。日本ではまだ8社だが、台湾では18社。なお、韓国や中国の数字は少ないが、IDPFに参加していなくても強く関心を抱いている出版社が多く存在しているとのこと

日本の出版社が待ち望む「EPUB 3.0」いよいよ5月に登場

日本の出版社がいまひとつEPUBに興味を示していなかったのは、「現在のバージョンでは縦書きがサポートされていないため」と村田氏は分析する。しかし、近日中にドラフトが一般公開されるEPUB 3.0では、ついに念願の縦書きの仕様が固まる。村田氏は会場のスクリーンに、テスト段階のEPUB 3.0でデモンストレーション用に作った『草枕/夏目漱石』を映し出した。公開された電子書籍は、きちんと縦書きが表示されていた。日本語が縦書きになっているだけでなく、アルファベットは正しく寝ている。村田氏は「まだレイアウトが乱れている部分も多少あるが、すでに十分実用的なデザインを組めます。これが完成すれば、EPUBに対応しているブラウザ SafariやChromeで縦書きが普通に使えるようになるのも時間の問題」と予測した。縦書きのコンテンツが誰でも使えるようになる時代は、すぐそこまで来ているのだ。

『草枕/夏目漱石』のEPUB。Safariで縦書きが表示されている

EPUBなので、文字のサイズを拡大可能。また、アルファベットが正しく寝ているのも確認できた

EPUBのワークフローにAdobe製品を取り入れる利点

今後、日本で急速に普及していきそうなEPUB 3.0だが、コンテンツを制作するにはどうしたらよいのだろうか? 村田氏に続いて登壇したアドビ システムズ 岩本崇氏は、「『InDesign CS5』を使えばファイル形式を指定するだけで、そのままEPUBのファイルを作成できる」と語った。InDesign CS5は、映像や音楽が組み込まれたマルチメディアな電子書籍から、EPUBのような読み物まで制作可能。制作者はコンテンツに応じて出力フォーマットを選べばよい。最後に岩本氏は、「EPUB 3.0が策定されたら、さっそく『Adobe Digital Publishing Suite』にも実装していきたい」と同社のEPUBにかける意気込みを語った。

EPUBは読み物を作るために生まれたフォーマットだが、コミックやマルチメディアへの対応も検討されている