NTTおよび埼玉大学による研究グループは、半導体レーザ光の強度(明暗)がランダムに変動する物理現象を利用し、2Gbpsの物理乱数の生成が可能な、ランダム信号発生モジュールを開発したことを明らかにした。米国の学術雑誌「Physical Review A」に採録された。

現在、インターネットをはじめとした通信ネットワーク上で伝送される様々な情報を保護するため、乱数を用いたパスワードや暗号鍵が多く使われているが、これらの多くはPCを用いて作成する擬似乱数が用いられているため、コンピュータの処理能力が向上し、シードと呼ばれる情報(初期値)とアルゴリズムが判明してしまうと、原理的には出力乱数が予測されてしまう危険があるとされているため、より高い安全性を確保するには、原理的に絶対に予測できない物理乱数を用いた暗号が求められているが、物理乱数を使った暗号の実用化に向けては、物理乱数の生成の高速化とともに、物理乱数を生成する装置の小型化が課題となっていた。

今回、研究グループでは、従来、レーザや光ファイバなどの光学部品を組み合わせて構成されていた、大型のランダム信号発生システムの光学部品部分を、NTTが光通信デバイスの研究開発で培った半導体光集積回路技術を活用して、300μm×10mmのチップに集約。

開発されたレーザカオス発生光集積回路の概要

その結果、ランダム信号発生システムを従来システムの1万分の1以下となる、1cm×2cmサイズのモジュールで実現できるようになり、機器へ搭載して実用的に活用することへの期待が出てきた。

ランダム信号発生モジュールの概要

また、従来のランダム信号発生装置の光学部品部分は、数メートルの光ファイバを用いる大型のものであったため、システム内の光の伝送に時間がかかったが、今回のチップ化による小型化により、光の伝送にかかる時間も削減でき、乱数生成速度を従来の1.7Gbpsから、2.08Gbpsに向上させることが可能となった。

レーザモジュールの説明図

半導体レーザ内部には、自然放出や熱雑音といった予測不可能な微小なノイズが存在しており、半導体レーザから出力された光を反射鏡で戻すループを付加すると、これらのノイズがカオス現象により増幅され、半導体レーザから出力される光信号がランダムに変動することは確認されていたが、これによる物理乱数生成法の予測不可能性は保証されていなかった。今回の研究により、自然放出とカオス現象の持つ混合性という性質の組み合わせにより、予測不可能なランダムビット列が高速に生成できることが明らかとなった。

レーザの出力信号と乱数系列

なお、研究グループでは今後、光集積回路および電気信号処理部分の小型化をはじめ、より高速な生成レートの実現を目指すとしているほか、量子暗号への応用を含め、さまざまなセキュリティ技術への応用の検討も進める予定としている。

出力信号のスペクトル