ネットユーザーのブラウザ利用をトラッキングし、収集したデータをマーケティングに利用するOnline Behavioral Advertising (OBA)。行動ターゲティング広告を通じてネットユーザーは自身の興味に関連性の高い広告を受け取れるようになる。一方で、OBAのトラッキングやユーザーに関するデータの共有はプライバシー侵害に相当するという指摘が根強い。昨年12月に米連邦取引委員会 (FTC)がオンライントラッキングをユーザーが拒否できる仕組みの実現を提案。MicrosoftがInternet Explorer 9向けに「Tracking Protection」の開発に乗り出した。こうした動きに応じるようにMozillaとGoogleも、トラッキングをユーザーがオプトアウトできる新たな仕組みを打ち出した。

トラッキング対策はcookie管理やMicrosoftのTracking Protectionのようなブラックリスト形式が多いが、Mozillaはブラウザユーザーがウエブサイトや広告ネットワークに「Do Not Track HTTPヘッダ」を送信するソリューションを提案している。「ヘッダを基にしたアプローチはシンプルで使用しやすく、cookieをベースにしたソリューションよりも持続的な効果があり、またユーザーが広告ネットワークや広告主のリストを見つけて入手するような手間もかからない」とAlex Fowler氏は説明する。ただしヘッダを基にしたソリューションはブラウザとサイトの両方の対応が必要であり、サイト側のサポート促進が課題になる。この点について同氏は「Mozillaもニワトリとタマゴの問題に陥る可能性を認識しており、(すぐに実装するのではなく)まずは将来のFirefoxリリース向け機能候補として提案するステップを取った」としている。

Mozillaが提案する「Do Not Track HTTPヘッダ」。ユーザーがブラウザでDNTヘッダを有効(1)にすると、ブラウザはDNTヘッダをサイトや広告ネットワークに送信(2、4)、広告サーバはパーソナライズしていない広告を配信する(5)

一方、Googleは「Keep My Opt-Outs」というChrome用拡張をリリースした。Web産業の自主規制プログラムをサポートしている企業からの広告向けトラッキングを完全に排除 (オプトアウト)する。cookieはオンライン広告だけではなくブラウザのカスタマイズなどにも用いられているが、同拡張はChromeの利用体験やWebサイトの機能を妨げないようにデザインされているという。

MozillaのDo Not Track HTTPヘッダはシンプルで他のブラウザにも広がる可能性を備えたソリューションだが、現段階ではプライバシー保護の効果が見えにくい。GoogleのKeep My Opt-Outsは即効的な対策だが、ブラウザの搭載機能ではなく拡張なので、ユーザーが別に導入しなければならない。MicrosoftのTracking Protectionはユーザーがリストを作成または入手する手間が必要と、いずれも一長一短であるのが現状だ。しかしオプトアウト機能の必要性という点で3社が同じ方向に進み始め、かつてのスパムメール対策のようなネット産業全体の取り組みとなったのは大きな前進といえる。