映像制作会社 ILMに所属し、15年のキャリアを持つトップアーティスト、アレックス・イェーガー氏(以降、イェーガー氏)。同氏にILMでの仕事に対する考え方や、現在制作中の映画『Transformers: Dark of the Moon』(原題)のCG制作秘話などを伺った。なお、前編はこちら。

成長するためにはコミュニケーションを図り、刺激し合うことが重要

映画『Transformers: Dark of the Moon』(原題)の制作にも携わっているCGクリエイター、アレックス・イェーガー氏

ILMのようなトップアーティストが集う場で、自分自身の能力を磨いていくことは大切なこと。実際に現場ではどのようにして切磋琢磨しているのだろうか。

「ILMにおいてチームで作業していると、目に見えないところでの競争があります。しかし、我々はお互いに戦うと言うよりも協力し合ったほうが、自分のオリジナリティに刺激が増すと考えています。自分のアイディアを他のメンバーに見せ意見を求める。すると、他の人には別のアプローチからのアイディアがあったり、自分が気づいていないことに気付いてもらえたりする場合があります。お互いにコミュニケーションをとりながら刺激し合うことが大切なのだと思います」

良いアイディアをブラッシュアップするためには、コミュニケーションも大切な要素というわけだ。

映像制作を効率よく行うための極意は日々の弛まぬ努力にある

イェーガー氏は現在、2011年7月公開予定の映画『Transformers: Dark of the Moon』(原題)の制作に携わっているそうだが、あれだけの作品を仕上げるためにどれだけのメンバーが関わっているのか想像できるだろうか。自身の携わる美術部門は5名とのことだが、VFX全体では120名ものアーティストが制作に携わっているのだという。それだけの巨大なプロジェクトを効率よく行うための秘訣、ILMならではのノウハウがあるのではないか。そう思い伺ってみたところ、制作現場では弛まぬ努力が積み上げられていた。

「"パーツライブラリ"を筆頭に、技術的にいうと小さな工夫はたくさん実践しています。例を挙げると、ロボットがだんだん複雑になってきているので、効率を保つためになるべく少ないポリゴンでと気を配っています。また、ポリゴンを削ってもう少しディテールを画像で補ったり。さらに、画面に大きく映るものは高解像度で、小さなものや後方にあるものは低解像度にするなど、同じ画面でも解像度が混在するような状態にしています。あとは、画面からアウトしたものはすぐレンダリングを停止する。画面から見えないものへの作業は即刻やめる、といった工夫をしています」

細かな工夫と映るかもしれないが、こういった小さな工夫の積み重ねが成功へと導くのだ。ところでアーティストは様々な映画制作に携わるなか、監督に応じて仕事のスタイルを変えているのだろうか。イェーガー氏によれば、基本的にスタイルを変えることはないとしながらも、頭の中でスイッチを切り替えているという。

「デザインの見た目、基本的な捉え方など、要はデザイン言語のスイッチを作品によって変えなくてはいけません。例えば『スター・トレック』の中に『トランスフォーマー』に似たデザインテイストを持ち込んではいけないし、その逆も然りです。それぞれの作品の特徴にあったスタイル、デザインの考え方へ切り替える。『難しいか? 』と問われたら、昔は難しいと感じていましたが今はもう慣れてきましたね。自分のスタイルというものはもちろんあります。しかし、今はどちらかというと作品のスタイルで物を考えるようにしています」

様々な工夫、そして作品に応じたデザインの考え方へと即座に切り替えられるスイッチを持つこと。これは、第一線で活躍しているクリエイターたちが必ず持っている素養なのだろう。

modoをILMで流行らせたきっかけは「Photoshop」のジョン・ノール氏

監督のイメージを具現化していくために、アーティストは様々なツールを駆使する。イェーガー氏の最近のお気に入りは3DCG作成ソフト「modo」なのだという。では、modoをチョイスした理由は何なのだろうか。

「きっかけはPhotoshopの生みの親ジョン・ノールが『いいものを持ってきたよ』と紹介してくれたことです。アーティストにとって、非常に操作しやすく覚えやすい。簡単に思い描いたイメージを形にすることができるんです。そういう理由で我々の中で流行り始めたんです。だったらILMの美術部門全員で一斉に勉強して、お互いに知識をシェアしあいましょう、ということになり1年半くらい前から本格的に導入しました。私はアーティストなのでその観点からお話ししますが、まずはアイディアを絵にすることが一番の喜びなんです。なので、私が筆を動かせばそれが自動的に3Dになっていくといった環境があればいいんですけどね(笑)」

その世界観ありきで、どれだけ深掘りできるかがカギ

"監督のイメージをビジュアライゼーションする"、"映画の中の世界を作る"。そういった作品の骨子となる世界観を作るために、アーティストはどこまで深く考えなくてはいけないのだろうか。

「まず、全体のイメージを捉えるところからスタートします。私はデザイナーであるシド・ミードのデザインに対する考え方や、デザイン哲学を尊重しています。新しい世界を作るときに、その中にあるものがそれぞれどのように関わっているのか、ちゃんと辻褄があって存在しているのか。例えば、街の中だったら、その街でどのような生活が営まれているのか、工場が多い街なのか、住宅ばかりなのか。そういった全体のイメージから把握するようにスタートすれば、あとは自然とどれだけのディテールまで掘り下げるかが決まってきます。例えば、工場地帯だったら煙突があるなど、美しさより機能的であろうといった感じですね。パソコンのような小さなオブジェクトであっても、現実の世界だったらいろんな部品を覆ってしまうようなデザインだけど、違う世界では別のデザインとなるだろうと。その世界観ありきで、どれだけ掘り下げるかというところが決まってきます」

では、映画制作の現場ではどのようにして世界観が決め込まれていくのだろうか。

「想像するならば果てしなく想像することができますが、個人的にはひとつの枠組みの中で仕事をするほうが良いと考えています。脚本などのある程度の設定があり、その中で自分のアイディアを出すという形が良いんじゃないかと思います。J・J・エイブラムス監督の場合は、未来的なイメージにしたいが実際にありそうな世界、決してファンタジーではない世界にしたいと強くイメージしていました。未来的だから何でも空に飛ばす、と乱暴な発想はせず、ある程度の枠組みの中でアイディアを膨らませたんです」

つまり、監督がイメージした世界観ありきで、その枠組みのなかで可能な限りの想像を働かせる。そして、想像を働かせ新たな世界を描きつつも作品の世界観が破綻しないよう微妙なさじ加減やバランス感覚がアーティストには求められるのだ。

手を動かし続け、良いと思ったアイディアは簡単に捨てない

最後に、アーティストとして"未来のアレックス・イェーガー"を目指すクリエイターにメッセージをいただいた。

「とにかく手を動かし続けることが大事です。そして、自分がいいと思うアイディアは簡単に捨てたり、諦めたりしてはいけません。受け入れられなかったからといって諦めるのではなく、そのアイディアをちゃんと人に見せて説得する。そういった気概を持って、他の人とコミュニケーションを図り、お互いに協力し合ってアイディアを膨らませることが大事なんです。また、技術に傾きすぎないように注意してください。アナログな手法も忘れてはいけません。PCはひとつの道具だと思ってもらっていいと思います。PCは電源がないと使えませんが、紙と鉛筆ならいつでもどこでも使えますからね」

技術も大事だが、それだけではなく手を動かすことが大事。そして、柔軟な発想ができるように"アイディアの引き出し"を育み、他者とのコミュニケーションで具現化するアイディアをブラッシュアップしていく。3DCGアーティストならずとも、イェーガー氏のメッセージは心に響くことだろう。