iPadは受信メモに最適!

――樋口さんは普段どのようなメモをとっていますか

私のメモは「発信のためのメモ」と「受信のためのメモ」があります。

「発信のためのメモ」は本の執筆や講演、スピーチといった「表現」を前提にしてとるもの。「受信のためのメモ」は、情報をインプットして知識を増やしたり、もの忘れを防止したりするためのものです。

若いころは特にメモをとらなくてもすんだのですが、最近はこまめに「受信のためのメモ」をとるようにしています(笑)そんな時に活躍するのがiPadです。

――iPadのどんなところに魅力を感じますか?

iPadは「受信のためのメモ」に非常に適したツールだと思います。気になる言葉や見慣れない横文字に出合ったときはすぐに検索できますし、思い付きを書き留めることもできます。

――iPadでメモをとるときは、どんなアプリを使っているのですか?

手書きメモアプリ「neu.Note」です。 手書きメモをそのままメールで送れますし、必要とあらば筆談もできる。非常に重宝しています。iPadで新聞や電子書籍もよく読みます。外出するときは必ず持って行きますね。

ちなみに自宅ではデジタル卓上メモ「マメモ」を使っています。

デジタルメモはいくら書いてもかさばらず、データを一括して保存できることがメリットだと思います。

発信メモはアナログツールで

――デジタルが「受信のためのメモ」向きだとすると、「発信のためのメモ」はアナログが向いているということでしょうか?

デジタルメモはとても便利ですが、書くスペースがどうしても限られます。私の場合、発想を自由に羽ばたかせるためには最低A4サイズのスペースが必要なので、本の執筆や講演会の準備などにはルーズリーフを使っています。

――本を執筆するときはどのようなメモをとっているのですか?

あるテーマについて本を執筆しようと決めたら、思いついたことはすぐ書き留めるようにしています。この場合はどんなツールを使うかにはこだわりません。手帳の空いているページやプリントの裏など、手近なものですませます。そして帰宅後に断片的なメモをルーズリーフに書き写し、じっくり眺めて「関係性」を見つけるのです。 今まで書き溜めたルーズリーフと一緒にしたり、並び替えたりしてより大きな視点で構成を練ることもあります。

デジタルメモでも同様の作業ができるかもしれませんが、全体を俯瞰するには紙のメモが最適。しかもルーズリーフは取り外しが簡単で、いらないものは捨てられる。ひょっとすると使う人は減っているかもしれませんが、ルーズリーフの手軽さはまだまだ捨てがたいと思います。私はルーズリーフを20年以上使っているので、ストックは大量にあります。過去のアイデアをまとめて執筆することもできますし、久々に読み返すと非常にいいことが書いてあって自分でも驚くことがあります(笑)

――先ほど「ルーズリーフを眺めて関係性を見つける」と述べられましたが、具体的にはどのようなことでしょうか

還元主義(多様な事象をそれ以上分割不可能な要素に還元して説明しようとする立場)という考え方がありますが、私もあらゆる物事は「一つ」に集約されると思っています。だから私があるテーマに関して思いついたことは、すべて一つの要素に還元されるはず。ここで言う「関係性を見つける」とは、数々の事象の背後に隠された中心的な問題を一つ見つけるということです。

ずいぶん難しいことを言っているようですが、様々な仮説を立て、「これはつまり……だ」と突き詰めていけば、自然と到達することができます。そのためには「断片的なメモ⇔ルーズリーフで俯瞰」を繰り返すことが大切です。

――「関係性を見つける」力を養う方法があれば教えていただけますか?

読書をするときは必ず自分の意見を書き込むようにしてはどうでしょうか。 自分が思いついたことや反論を書いたり、疑問を感じた箇所に「?」マークをつけたりしてもいいでしょう。そして本を読み終わったらルーズリーフにまとめます。こうすることで作者の根本的な思想を導き出せますし、同時に自分の信条や考え方もはっきりします。

――特に反論を書いたほうがいいのですか?

「大事だと思った部分=賛成できる部分」に印をつける人は多いと思いますが、残念ながらそれだけでは論理的な思考力は身につきません。

反論と聞くと何か人にたてつくことのように感じるかもしれませんが、あくまでも作者の意見に対して自分はどう感じたのかを表現したり、不足分を補ったりするためのものです。

たとえ本に書いてあることを実行するにしても、自分の仕事や立場を考慮しておかなければ実際に通用しないでしょう。だから読書という機会を利用して、自分の思考力を養っておくのです。

しかも読書メモは「発信」と「受信」を兼ね備えたすぐれもの。これを地道に積み重ねていけば、論理的な思考力は必ずついてくると思います。



次回は「頭がいいと思われる文章を書くためのメモ」についてうかがいます。

INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
元中国新聞記者。2008年に始めたネットラジオ番組「人生を変える 一冊」をきっかけに起業。 現在は、企業や教育機関、公共機関などに音声(ポッドキャスト)を活用したサービスを提供している。インタビュアーとしても精力的に活動、渡邉美樹さん、茂木健一郎さんらこれまでにインタビューした人物は1,000人を超える