3D映画が次々と大ヒットを飛ばし、世の中は今まさに3Dブーム。そんななか12月17日、ディズニーが20年以上にわたって構想を練ってきた3D映画『トロン:レガシー』が公開された。どこまでも広がる奥行き、観客にまるで違和感を抱かせない空間演出――3Dが秘めた可能性を最大限に感じさせてくれる作品だ。次世代の映画業界、そしてビジネス界を担うのはやはり3Dなのか…!? そこで、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャー・プロダクションの現プレジデントであり、『トロン:レガシー』の製作にあたったショーン・ベイリーに3D映画と3Dビジネスの現状と未来、今後の戦略について直撃した。

ショーン・ベイリー
2000年、ベン・アフレック、マット・デイモンらとともに制作会社ライヴプラネットを設立し、数多くの映画を手がける。その後、制作会社アイデオロジー代表を経て、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャー・プロダクションのプレジデントに就任。プロデュースした主な作品に『完全犯罪』(1999年)、『卒業の朝』(2002年)、『マッチスティック・メン』(2003年)、『ザ・コア』(2003年)、『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(2007年)などがある

――3D技術の側面から見て、『トロン:レガシー』はこれまでの3D映画と決定的に何が違うのでしょうか?

ベイリー「確かに今回は『アバター』(2009年)で使ったものよりも進化したカメラで撮影をしているんです。つまり、もっともハイレベルな技術を駆使していて、非常に画期的な作品であるわけです。そもそもこの作品は、最初から3Dで撮ろうと考えて乗り出した作品。だから計画の段階から常に3Dを想定して、世界観や各ショットを作り上げていきました。そういうこともあって、本編の冒頭から、より皆さんが世界に入り込める作品になっているんです。また、映画には3Dにふさわしい、まったく別の世界に入り込める作品がいくつかあると思います。『アバター』しかり、『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)しかり、今回の『トロン:レガシー』しかり。これらは非常に3Dに合っている作品だと思いますね」

――技術面も含め、今回の仕上がりには満足されていますか?

ベイリー:「現段階では、ジョセフ・コジンスキー監督と撮影チームが最先端の技術を駆使し、もっとも洗練された映画を作ったと思いますし、非常に満足しています。ただ、アーティストにはもっとすごいことをやりたいという欲求がありますから、これから先3D映画はもっと進化を遂げることになると思います」

――具体的に将来3Dで実現したいと思ってらっしゃることはありますか?

ベイリー「3D映画という点では今、ギレルモ・デル・トロ監督と3Dで再映画化する『ホーンテッドマンション』についてディスカッションをしている最中なのですが、彼はプロジェクターか何かを使って、劇場の観客の横に幽霊を座らせたいと言ってるんですよ。それはまだ今の技術では実現できませんけど、いつか可能になるかもしれませんね」

"3Dが流行っているから、3Dにしてしまえ"は害になる

――『トロン:レガシー』以降、ディズニー映画はどのように進化していくとお考えですか? 今後の展望をお聞かせ下さい。

ベイリー「『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ(2003年~2007年)、『アリス・イン・ワンダーランド』のように、午後2時や5時の上映には子どもたちを連れて行って楽しめる、また夜8時や10時の上映には大人同士が行って楽しめる――そんな幅広い年齢層に受け入れられる作品をディニーとしてはこの先もずっと作っていきたいし、それこそが僕たちにとって"最高の作品"なんです。それと同時に最高のフィルムメーカーたちと組んで、最高の映像を作り上げる。例えば『パイレーツ・オブ・カリビアン』ではジェリー・ブラッカイマー、『アリス・イン・ワンダーランド』ではティム・バートン、『トロン:レガシー』ではコジンスキーなど、名だたるフィルムメーカーたちと手を組みました。現在も先ほど話したデル・トロをはじめ、ロブ・マーシャルやアンドリュー・スタントン、デヴィッド・フィンチャーやサム・ライミ、フランシス・ローレンスなどとも組んで、プロジェクトを進めています。僕たちはすべての人の心に訴えかける物語を、世界でもっとも野心的なフィルムメーカーたちとともに作っていきたいんです」

『トロン:レガシー』
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――現在大人気の3D映画ですが、今後長い目で見た時に映画業界を牽引していくような存在になり得ると思いますか?

ベイリー「他社がどういう考えかは分かりませんが、ディズニーとしては3Dで撮るのであれば、最高のクオリティーのものを撮るべきだと考えているんです。作品自体が3D化するのにふさわしいかどうかをちゃんと見極め、いちばんふさわしい形の3Dにするようにする。そうすれば、3D映画には明るい未来があると思うんです。でも、今は映画業界全体に" 3Dが流行っているから、3Dにしてしまえ"という風に焦って製作している風潮がある。このままやみくもに3D映画を作り続ければ、結果的に映画業界にとって害になってしまうでしょうね」

3Dビジネスの現状は"ニワトリが先か卵が先か"

――3Dに絡むビジネスについてはどう見てらっしゃいますか? 実際、3Dブームは過去にもありましたが、永続的な成功にはつながりませんでした。今もブームが到来していますが、3Dテレビの売上げが伸び悩んでいるなど、多少頭打ちの感もあります。

ベイリー「アメリカでも同じような状況なんです。ただ、これに関しては"ニワトリが先か卵が先か"の議論になってしまうんですよ。というのも、まだコンテンツがあまりないので、皆さんはテレビを買うにはまだ早いと感じて躊ちょしている部分もあるし、その逆もあると思うんです。映画館にしても、"3D作品がいっぱいなければ、3D用の劇場を作る意味がない"という風になってしまっている。そういう現状を考えても、3Dビジネスは今ちょうど過度期なんだと思います」

――DVDについてはいかがでしょうか? 日本でもアメリカでもセル市場が縮小の傾向にありますが、3D作品の登場でセル市場の拡大につながると思いますか?

ベイリー「非常に面白い質問ですね。現に今、3D作品をDVDで提供できるようになっていますからね。ちょうどこれからホリデー・シーズンを迎えますし、そこでどれだけ売れるか――そこを見届けてからの判断になると思います。もちろんDVDがどれだけ売れるかは、3Dテレビの売上げにも懸かっているのですが……」

――そんな状況の中、ディズニーは今年映画部門とDVD部門を統合しました。

ベイリー「消費者が何を望んでいるのか。その変化に対応していくために、映画からDVD、テレビまですべてのプラットフォームを一貫して、総合的なプロモーション活動を行うことが狙いなんです。現在のところ、非常に上手く活用されていると思いますよ。ディズニーは今回のような新しいビジネス・モデルを提示する存在でもありますし、これからも消費者が本当に必要としているものを提供していけると思います」

――何かひとつ、今後の具体的な戦略を教えて下さい。

ベイリー「僕にも分からないんですよ。社内の誰も教えてくれないからね(笑)」

『トロン:レガシー』

デジタル界のカリスマであるケヴィン・フリンは、7歳の息子サムを残して姿を消した。20年後、サムは父からの謎のメッセージに導かれて、コンピューターの中の世界に入り込んでしまう。 そこは、父が創造した"理想の世界"──だが、今やクルーという独裁者がすべてを支配していた。命を狙われたサムは、クオラという女性に救出される。はたして父の行方は? そして、人類の存亡を脅かすこの世界の秘密とは……? ディズニーが20年以上にわたって夢見た企画を、各賞に輝いたXbox用ゲームソフト「ギアーズ・オブ・ウォー」などのCMを手掛けた映像クリエイターのジョセフ・コジンスキーがビジュアル化。壮大なスケール感と最先端の3D技術が光る! 12月17日(金)より全世界同時公開