クラウドは大きなパラダイムシフト

インテル マーケティング本部 エンタープライズ・ソリューション・スペシャリスト 田口栄治氏

「メインフレーム、クライアントサーバシステム、そして現在のクラウドコンピューティングというITの歴史を俯瞰すると、クラウドは大きなパラダイムシフトであると言えます。クラウドをコストセーブの手段の1つとして見るのではなく、そうした大きな転換期にあることを踏まえて、次の時代のITインフラを構想していくことが必要です」

そう語るのは、インテルのマーケティング本部でエンタープライズ・ソリューション・スペシャリストを務める田口栄治氏だ。田口氏は、1982年にインテルに入社後、日本地区IT事業部長、アジア地区IT技術統括部長、アジア地区データセンタ統括部長を歴任するなど、インテル社内におけるITインフラのグローバル統合や標準化を指揮してきた。いうなれば、インテルの国内CIOという"ユーザー視点"で、ITインフラの現状と将来像の構想に携わってきた人物だ。

その田口氏によると、クラウドが大きなパラダイムシフトと言える背景には、ユーザーや社会がこれまでとは異なる新しいテクノロジーのあり方を求め始めていることがあるという。

「例えば、これから5~6年後に世の中がどう変わるかを考えてみます。まず、インターネットに接続される人口は5年後に10億人増えると言われていて、ネットにつながるインテリジェントなデバイスも今の2~3倍になると言われています。現在、そうしたデバイスはPCや携帯電話を中心におよそ40億台とされていますが、5年後には、車やデジタルサイネージといった社会的なインフラもコンピューティング環境として利用されるようになります。実際、インターネットでやりとりされるデータの量は爆発的に増えていて、例えば、2009年までにインターネットでやりとりされたデータはおよそ150エクサバイトであるのに対し、2010年だけでその量を超えるほどになっていると言われています。従来は、企業がテクノロジーやサービスをドライブする役割を担っていましたが、今後は、社会システム自体がそれらを変革していく役割を担うと言っても過言ではありません」(田口氏)

クラウドというと、社員の業務効率を上げる便利なオンラインサービス、あるいは、企業がノンコア業務を外出しするための使い勝手のいいアウトソーシングサービスといった利用面だけからの捉え方をしがちだ。だが、田口氏は、それだけでなく、社会が変わるという長期的なビジョンのもとで、次世代のITインフラを考えていくことが大切だと説くわけだ。

インテルの「クラウド2015ビジョン」

では、具体的には、ユーザー企業が次世代のITインフラを構想する際にどのような点に注意すべきなのか。田口氏は、インテルが提唱する「クラウド2015ビジョン」に基づきながら、「次世代のITインフラの要件としては大きく、効率的、シンプル、セキュア、オープンの4つが挙げられます」と説明する。

効率的とは、データセンターの自動化や省電力化などによって、社外クラウドや社内クラウド、または、クライアントとサーバなどを簡単に結びつける(フェデレーテッド)機能要件のことを指す。インテルでは、そのためにインテル Xeon プロセッサーなどでエネルギー効率の向上、10ギガビットイーサネットワークへの対応などを図りつつ、データセンター向け製品を拡充してきたという。

また、シンプルとは、仮想化技術の採用にともなって、より複雑性が増したサーバ、ネットワーク、ストレージ環境をシンプルにすることを指す。インテルでは、ネットワーク機器やストレージ機器などについてもインテル Xeon プロセッサーの導入を進めており、インテル・アーキテクチャーという単一のアーキテクチャーによって、複雑性の排除に努めてきたという事情がある。

セキュアについては、仮想化環境におけるデータ保護や暗号化、マルウェアへの対応などについて、ハードウェア側で支援する仕組みを提供していることを指す。具体的な機能としては「インテル トラステッド・エグゼキューション・テクノロジー(インテル TXT)」や「インテル AES-NI (インテル Advanced Encryption Standard New Instructions)」などだ。

最後のオープンについては、オープン技術、標準技術を使って、クラウドを連携させやすくすることを指す。最初の3つがインテルが提供する要素技術であり、技術論的な意味合いが強くなるのに対し、オープン性については、ベンダー、ユーザー、パートナーがクラウドの連携をどう築きあげていくかというエコシステムの側面が強くなるという。

実際、インテルでは、10月に設立された「Open Data Center Alliance(ODCA)」と呼ばれるアライアンスに技術アドバイザーとして参画している。ODCAは、現在のデータセンターが抱える課題や将来のクラウドソリューションのあり方について、ユーザーが主体となって要件を定義していくものだ。

「インテルは要素技術を提供する黒子であり、主役となるのは、そうした技術を利用するユーザーやパートナーです。新しいクラウド時代には、そうした傾向はますます強まっていくでしょう。根底を支えるトレンドをきちんと理解していただくことで、将来を見据えたプランが立てられるようになると信じています」(田口氏)

先にも触れたように、田口氏は、インテルというテクノロジーの提供側としての立場にあると同時に、社内ITの変革に携わった"CIO"としての経験も持っている。では、田口氏自身は、クラウドというパラダイムシフトにあたって、ビジョンを具体化する施策をどう打っていくと考えるのか。

12月8日に開催される『ジャー ナル ITサミット 2010 仮想化セミナー』では、その田口氏の経験とノウハウも紹介される予定だ。クラウドというパラダイムシフトの背景を探り、今後に向けた施策を打つうえでおおいに参考になるはずだ。