マイクロソフトが11月30日まで実施している「Windows 7 アプリ投稿キャンペーン」に続々とアプリが投稿されている。今回のキャンペーンは、Windows 7の新機能を利用したアプリであれば、規模やジャンルにかかわらず誰でも投稿できる仕組み。実際、かゆいところに手が届くユーティリティーから、新UIを駆使した「おお」と思わず唸ってしまうようアプリまで、幅広くそろい始めている。

キャンペーンサイトにて全投稿アプリが確認できるほか、マイクロソフトのエバンジェリストが選んだ注目アプリがこちらのWebサイトで公開されている。

話によると、今回のキャンペーンは、その裏に「Windows 7には便利な新機能がたくさん追加されているが、開発者にはさほど利用されておらず、その恩恵がエンドユーザーの下まで届けられていない」といった事情があり、こうした問題を解消するためにも多くの開発者にWindows 7の新機能に触れてもらい、そのメリットを感じてもらおうという考えがあるようだ。

では、マイクロソフトがそれほどまでに自信を持つWindows 7の新機能にはどんなインパクトがあり、どういった利用方法が考えられるのだろうか。本誌は、マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部のエバンジェリストたちに、そのあたりの話を聞いたので、以下簡単にお伝えしていこう。

なお、キャンペーンでは、「シェルの統合」、「ハードウェアの機能」、「高度なグラフィック」の3つのカテゴリーに分けているが、本稿では、このうちの「ハードウェアの機能」について取り上げる。対象となる機能は、「センサー」、「マルチタッチ」、「インク」の3つになる。残りの2カテゴリーは追って紹介していく。

人感、脳波 - 「センサー」が広げる新しいインタフェース

UX & クライアントプラットフォーム推進部でエンベデッドデベロッパーエバンジェリスト 太田寛氏

「センサーとは、温度や傾き、位置、照度といった環境情報をPCに取り込むための仕組みのことです。例えば、PCの傾きに応じてディスプレーの描画を変えたり、GPSを使って現在位置を確認したりといったアプリはよく知られていますね。センサーをうまく利用すれば、これまでになかったような新しいアプリの開発もできるようになります」

そう語るのは、UX & クライアントプラットフォーム推進部でエンベデッドデベロッパーエバンジェリストを務める太田寛氏だ。そもそもPCには、CPUの温度を図る温度センサーや、HDDの衝撃を検知する加速度センサーなど、さまざまなセンサーが装備されている。だが、これらをアプリケーションから利用するには、メーカーからAPIのドキュメントを提供してもらったり、デバイスドライバーを自作したりといった多大な手間がかかっていた。

あまり知られていないが、実は、Windows 7では、こうしたセンサーを利用するためのセンサーAPIがOSの標準機能として提供されている。このAPIを利用すればわずか数行のコードを組み込むだけで、センサー情報を利用したアプリケーションが開発できてしまうのだ。

「コントロールパネルの『位置センサーとその他のセンサー』を見れば、アプリケーションで利用できるセンサーが分かります。本体に備わる加速度センサーや照度センサーなどのほかに、周辺機器として接続したセンサーを利用することもできます。最近では、米国ニューロスカイの脳波センサー付きヘッドフォン、アイ・オー・データの人感センサーといったユニークな周辺機器も発売され始めていて、新しいアプリ開発の可能性は広がっていると感じます」(太田氏)

あとは、アプリ開発者の工夫次第だ。例えば、人感センサーを利用して、PCの前に人がいなくなったらPCを自動的にロック状態にしてセキュリティを確保したり、脳波センサーを利用して、集中力が落ちたときにリラックスできるような音楽を自動的に流したり。太田氏によると、センサー情報を活用したアプリとしては、ゲーム、ナビ、エコといった分野が向いているという。また、体温データを取得してクラウド上に蓄積し、かかりつけ医に診断してもらうといったヘルスケア分野での活用もあり得るのではないかと話す。

センサー対応端末の例。右上のヘッドフォンは脳波センサー、中央にある正方形の黒い端末は人感センサー、下部のオレンジのPCはGPSや加速度センサーなどが搭載された「VAIO P」、左上のグローブは太田氏が自作した手の動きを感知するセンサー。脳波センサーも人感センサーも、安いものであれば数千円で手に入るという。

より自然な入力環境を提供する「マルチタッチ」と「インク」

UX & クライアントプラットフォーム推進部のアーキテクチャーエバンジェリスト 高橋忍氏

マイクロソフトでは、マウスやキーボードを使わない新しいユーザーインタフェースとして「ナチュラルユーザーインタフェース」の実現に力を入れている。センサーを使った情報取得もその1つと言えるが、入力環境という点で具体的に提供されている機能が「マルチタッチ」と「インク」だ。

Windows 7のマルチタッチの大きな特徴は、センサーと同様、OSの標準機能として実現している点にある。マウスを利用できるすべてのシーンでマルチタッチが可能で、ジェスチャとしては、2本指で画面を拡大・縮小する「ズーム」、左右になぞって進む/戻る操作をする「パン」、画面を回転させる「ローテーション」の3種類があるが、これらもOSの標準機能として提供される。UX & クライアントプラットフォーム推進部のアーキテクチャーエバンジェリスト、高橋忍氏はこう紹介する。

「画面をタッチすると、マウスイベントと同じようにタッチイベントが発生します。複数のポイントをタッチした場合は、ポイントごとにx座標、y座標、接触面積などが取得され、それぞれに固有のIDが割り振られる仕組み。各IDの距離や移動量などを見て、ズーム、パン、ローテーションといった動作ができるようになっていて、慣性スクロールなども標準機能として実装されています」

マルチタッチは、一見、複雑な処理が必要にも思えるが、特にそうしたことを意識することなく、容易に開発できるという。

一方、インクは、タブレットPC(Windows XP Embedded)などに装備されていたペン入力システムがWindows Vista以降、標準搭載されたものだ。Windows 7では、タッチやペン入力に対応したインクコントールに文字認識エンジンが組み込まれ、高い精度で文字を認識できるようになった。文字だけでなく、図形の認識も可能だ。

代表的な使い方としては、メディアやクリップボードなどのアプリケーションと連携させるというのが挙げられる。例えば、メディアと連携させることで、再生中の動画の上からペンで文字や図形を入力し、入力した筆順と筆跡をそのまま動画上に記録できる。動画を再生すると、ペン入力した筆順と筆跡が同時に再生されるといった動きが実現可能だ。また、クリップボードとの連携例としては、ペンによる画像の切り抜きが挙げられる。クリップボードを立ち上げて、画面上で円やハートの形を描くと、その形に沿って自動的に画像が切り抜きされて、ファイルとして保存されるのだ。こういった機能は実はWindowsの標準アプリとして搭載されているものもあるのだが、工夫次第でさらに利便性の高いアプリケーションも開発できるだろう。

インクとクリップボードを連携させたアプリの例。画面の上でハート模様を描くとその形に切り抜かれ、クリップボードに張り付けられる。こちらはWindowsの標準アプリとして提供されている。

高橋氏は、これからキーボード自体がないスレート型のPCが多数登場するのに伴って、マルチタッチやインクの重要性は増していくとし、「今後、思いつかないような新しいアプリも登場するのではないか」と期待を寄せる。

「Windows 7 最新機能実装アプリケーション開発セミナー」開催へ


マイクロソフトでは今回の「Windows 7アプリ投稿キャンペーン」に連動したセミナーを11月11日に開催する。同セミナーでは、マイクロソフトのエバンジェリストたちにより、本稿でも取り上げたようなWindows 7の新機能の概要や実装方法がひととおり解説される予定だ。

セミナーの概要は以下のとおり。

■日程: 2010年11月11日(木) 13:00~17:10(12:30 開場/18:00 閉場)
■参加費: 無料(事前登録制)
■会場: マイクロソフト 新宿本社 5F セミナールーム A・B
■定員: 80名 (定員になり次第、登録締め切りとなります)
■対象: Windows 開発者、Web 開発者

詳細および申し込み方法はこちらのWebサイトにて確認してほしい。