日立製作所および新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究チームは11月5日、日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)の協力の下、従来の磁気記録方式の限界を超え、HDDの記録密度を向上させることが可能なマイクロ波アシスト磁気記録方式(マイクロ波アシスト記録)の基本技術を開発、その原理を実験的に確認したことを発表した。

マイクロ波アシスト記録は、記録媒体の小領域にマイクロ波帯の高周波磁界を加え、磁気情報の書き込みを容易にするもの。今回研究チームが開発したのは、ヘッドに搭載可能な高周波磁界を発生するスピントルク発振素子で、同素子を用いて、記録媒体上に磁気情報を記録できることを実験的に確認した。

磁化の方向が固定された固定層と自由層からなる積層した磁性体に電流を流すと、固定層磁化の作用により分極した電子スピンが自由層に流れる。この電子スピンからのトルクを受け、適切な条件下においては自由層の磁化は一斉に回転する。この状態は「スピントルク発振」と呼ばれ、同状態において自由層からアシスト記録用の高周波磁界が発生する。今回開発されたスピントルク発振素子では、10GHz帯の高周波発振現象が確認された。

また、マイクロ波アシスト記録では、高周波磁界によるアシスト効果により、弱い記録磁界で記録媒体の磁化の反転が可能になる。試作したスピントルク発振素子を、垂直磁気記録向けの記録媒体と組み合わせてアシスト記録効果の検証を行なったところ、記録媒体に磁化反転が発生しない弱い磁界を印加した状態で、記録媒体上に近接させた素子をスピントルク発振させ、その直下の記録媒体の磁化を局所的に反転させ、磁化情報の書き換えができることが確認できたという。

この結果は、高周波発振素子から発生するマイクロ波を用いたアシスト記録方式が原理的かつ実験的にも実現可能であることを示している。加えて研究チームでは、同原理を用いることで、1平方インチあたり3Tビットの記録密度が実現可能であることを計算機シミュレーションにて確認したとする。

これまで、外部のマイクロ波発生装置を用いたマイクロ波アシスト効果の報告例はあったが、今回、微細な発振素子を用いた磁気情報の記録を実際に確認できたことで、将来、同素子を記録ヘッドに搭載し、マイクロ波アシスト記録を実用的に行うことの可能性が示されたと研究チームでは説明している。

なお、同成果の詳細は11月14日から18日まで米国アトランタにおいて開催される磁気記録に関する国際学会「55th MMM Conference」において発表される予定となっている。