三洋電機は10月18日、兵庫県加西市の加西工場に建設を進めていたハイブリッド電気自動車(HEV)向けリチウムイオン電池の生産拠点となる新棟が10月22日に稼動することに伴い、同地で進めてきた太陽光発電などの環境技術・システムを導入した「加西グリーンエナジーパーク(GEP)」が完成したことを発表した。

完成した三洋電機の加西グリーンエナジーパークの全景

GEPは、同社のHIT太陽電池を工場外壁や管理棟などに1MW規模で設置し、工場の使用電力の一部をまかなうほか、18650タイプのリチウムイオン電池を1ユニットあたり312本搭載したバッテリマネジメントシステム(BMS)を1000ユニット(18650換算で約31万本)組み合わせ、1.5MWhの蓄電量を実現した蓄電システム、各種省エネ機器を制御するエネルギーマネジメントシステム(EMS)およびこれらの統合コントロールを行うスマートエナジーシステムなどが導入されており、年間2480tのCO2排出量削減を目指す。

約50億円かけてGEPを建設。リチウムイオン電池の生産のほか、低炭素社会に向けたさまざまな実験をこの地で行っていくこととなる

またGEPは、各種の実証実験の場としての活用も期待されている。例えば、BMSの電力を交流(AC)に変換して、再びPCなどで直流(DC)に変換するのは電力変換効率が悪いため、BMSから直接DCでPCなどに送電する「DC配電」によるPC駆動やLED照明の駆動実験が行われている。

GEPの完成を宣言する三洋電機の代表取締役社長である佐野精一郎氏

同社代表取締役社長の佐野精一郎氏はGEPについて、「w2年ほど前、加西に来て、夜に見た満天の星空。そのとき、GEPの構想を固めたのがまるで昨日のようだが、加西という土地は緑に囲まれた場所であり、ここをエネルギービジネスの拠点として開発者に先進の研究をしてもらいたい」と述べ、三洋電機が築いてきたエネルギー関連技術と技術者たちの不断の努力による結晶がGEPを創りあげたことを強調した。

GEPの中心となるのがHEV向けリチウムイオン電池を生産する新棟。2010年7月より稼動を開始しており、月産100万セルの生産能力を有しているが、「2015年にはこれを1000万セルに引き上げる」(同)とする。

また、「今は18650タイプのリチウムイオン電池セルがメインだが、蓄電システム向けなどへの需要も踏まえ、専用の大型セルの開発なども検討している」(同)とし、コスト低減を図りつつ、需要を見極め、そうした新分野に向けたセルの開発も行っていくとした。

「創エネ」「蓄エネ」「省エネ」の3つをマネジメント

GEPのコア技術となるのが、「創エネ」「蓄エネ」「省エネ」の3つの技術とそれを管理するエネルギーマネジメント技術。創エネは同社の誇る「HIT太陽電池」を活用した発電。GEPにはモジュールとして5200枚(年間予想発電量として1080MWh)のHIT太陽電池が用いられており、一部にはより20%高い発電効率を実現している「HITダブル」が用いられているほか、管理棟の南面には外壁工法を組み合わせた「ダブルファサード工法」によるHITダブルの設置を実現している。また、HIT太陽電池については、「セル変換効率を従来よりも0.5ポイント向上させた21.6%のモデルを量産レベルで実現した」(同)とのことで、近いうちにその詳細を明らかにする予定とした。

GEPのコア技術となるSESの構成イメージ

創エネ分野は1MWクラスの太陽電池を活用して行う。太陽電池は管理棟の壁面のほか、各電池生産工場の天井、Solalib、入場ゲートの屋根、駐輪場などいたるところに設置されている

GEP内のソーラー駐輪場の様子。手前側の駐輪場の屋根にはHITダブル太陽電池が、奥の駐輪場の屋根にはHIT太陽電池がそれぞれ設置されており、手前に見えるロッカーのようなところに置かれているバッテリ充電装置および蓄電システムへと給電される

左が蓄電ユニット群(5ユニットで20台分のエネループバイクの充電が可能)で、右がエネループバイクの充電器

GEP内に設置されたリチウムイオン街路灯。良く見ると街路灯の下部分に監視カメラが付いており、その様子はWi-Fiで管理棟へと送信されている

外壁にHITダブルを設置した管理棟(右)と、円形のパラボラアンテナのようなものがGEPのシンボル的存在でもあるSolalib(ソラリブ)。SolalibにはHIT太陽電池と蓄電システムを搭載。10kWh分の電力を蓄えることができる。400Vの急速充電器が高速と中速の2種類とAC100/200Vの一般給電器が設置されている

HEV用ニッケル水素電池の生産棟の天井にも太陽電池がずらりと配置されている(左)ほか、GEP入場ゲートの上にも太陽電池が配置されている(右)

蓄エネは、こちらも同社が得意とするリチウムイオン電池を活用した充電システム。蓄電システムについてはすでに上述しているが、そのうちの25万セル(80台、800ユニット)が蓄電池棟に設置され、太陽光発電で生み出された電力や夜間電力を蓄え、昼間の電力使用量のピークカットに活用される。また、BMSとしては、蓄電ユニットを複数統合した蓄電用標準電池システムと、それを20台までコントロールすることが可能なバッテリ・マネジメント・コントローラで構成。セル間/蓄電ユニット間の電圧バランスをバランシング制御でコントロールすることで、システム性能のバラつきを抑制しているほか、1ユニットから数千ユニットまで用途別に最適化を図ることが可能となっている。

総容量1.5MWhのリチウムイオン電池を活用したバッテリシステムを活用することで、電力需要の一定化を図る。今回用いるリチウムイオン電池と同容量を鉛蓄電池で実現しようと思うと、1ユニットあたりで5倍程度の大きさとなるとのこと

BMSによりセルごとのバラつきなどを抑制。充放電を高度に制御することで、性能を最大限に発揮することが可能となる

実際の蓄電ユニット(4ユニット)とその前に見えるのが18650タイプの電池セル

蓄電池棟に設置されてる蓄電システムの様子。蓄電システムの温度は空調により23℃一定に保たれているとのこと。まるで、あたかもサーバがならぶデータセンターのようで、さながらバッテリセンターとでも呼ぶべきだろうか

そして省エネは、省エネシステム「エナジーマネジメントシステム(EMS)」を各分野で活用するというもの。GEPには「管理棟EMS」「厨房EMS」「売店EMS」「工場EMS」の4つのEMSが導入されており、空調や冷熱に対する管理機器の導入や廃熱利用などによる省エネ効果を発揮する。

GEPに導入されたEMS各種

管理棟EMSでは、例えば食堂などにネットワークカメラを活用した「STAIMSカメラ省エネシステム」が導入されている。これは、人感センサと照度センサを備えたネットワークカメラで、人が一定時間いない場合は照明を落とすといった操作のほか、事務室など、常に人はいるが、何人いるかは変わってくるような場所でも、何人いるかを判別し、最適な空調コントロールなどを実現するというもの。

STAIMSカメラ省エネシステムの概要

黒いドーム状のものが、実際に食堂に設置されたネットワークカメラ。これで人間の数や照度などを観察する

例えば食堂。普通であれば左のように全域にわたって照明がついているが、一定時間人が居ないことが確認されると、右のように照明が落とされる

こちらはコンビニでの例。人が居ない状態であると、冷凍機の照明が落ちており(左)、人が近づくとセンサで感知して照明が点灯する(右)。なお、このコンビニの天井の照明の一部もDC配電によるLED照明が設置されていた

また、DC配電によるPC駆動やLED照明の点灯などの実験も行われているほか、管理棟1Fの受付前には8面パネルによるスマートエナジーシステム(SES)によるどの程度CO2排出抑制を行っているか、どの程度蓄電しているか、どの程度発電しているのか、時間ごとの電力使用量推移などを表示している。これは、エネルギー活用などの遠隔監視の意味も含めた取り組みで、 こうした見える化を図ることで、将来的にこうしたソリューションを活用するカスタマがサービスの拡充を図ることもできるようになるという。

ACに変換するよりもDCで直接給電した方が変換ロスが少なくなる。また、見える化を行うことで、どの程度使用しているのかを意識付けることで使用量を減らすという方法は、すでに各所で実証されているが、その多くで効果が上がっているという報告もある

管理棟1階に設置された見える化のための8面LCDパネル。総蓄電量や発電量、時系列別の電力使用量などを見ることができる

事業の柱の1つとして期待される大型蓄電事業

太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーを活用した発電は天候次第のため出力変動が激しいという課題や、発電量と使用量のバランスが伴わない、いわゆる「需給のミスマッチ」が発生する可能性も大きい。そうした状況を緩和し、「需要のバランス調整と電力品質の一定化を図るために、大型蓄電システムを導入しようと考える流れになる」(同)と同社では想定している。また、普段は蓄電池として活用するが、非常事態にはバックアップ電源としての活用したいというニーズも期待できる。

そうしたことから、「電力需給バランスの調整」「携帯電話基地局のバックアップ電源」「大型商用施設の深夜電力の蓄電」「災害時の非常用電源」といった分野での需要が高いと見ており、「小規模から大規模までニーズに柔軟に対応できるシステムとして提供できる」(同)という大型蓄電事業を同社エナジー事業の4本目の柱として育成していく方針で、「住宅用、系統安定用、業務用といった分野に向けて提供していくことで、2015年度で1000億円規模の事業へと成長させたい」(同)との展望を述べる。ただし、「この事業規模は2015年の市場全体を1兆円、2010年で2兆円と見たときの数字。個人的には1000億円の規模はコンサバに見た場合の数値であり、市場規模そのものはこの倍程度になると見ているので、それに併せた成長を果したい」(同)との希望を示した。

エナジー事業第4の柱として期待される大型蓄電事業。その事業規模を2015年度に1000億円まで拡大させることが目標となっている