意味のない文章は書かない

――メモはとらない小飼さんですが、それとは別に手書きするものはありますか?

私が手書きするのは書類にサインする時ぐらい。これは手書きが嫌いだからではなく、自分が不器用だからです。だから宅配便の伝票を一枚書いただけで「今日1日の書き物はおしまい!」と思ってしまいますね(笑)

私が手書きしない理由はもう一つあります。それは手で書くとどうしても記憶してしまうから。例えば文章をタイプするより手で書いたほうがよく覚えられますよね。人間はそういう仕組みになっている。だから私は余計なことを覚えないためにも手書きしないのです。

――手書きは記憶と結びつきやすいのですね

そうです。だから記憶に定着させる力が大きい「手書き」という手段を使うなら、覚える価値がある文章を書くことです。

学校ではよく「単語を五つずつ書いて覚えなさい」などと教えますが、これはあまり意味がない。本当に英語を身につけたいのであれば「This is a pen」でもいいからフルセンテンスで書くべきです。たいてい英語は3~4単語あれば文章になるのだから、決して難しいことではありません。

日本人が「a」と「the」をよく間違えてしまうのも、単語をばらばらに覚えるだけで、実際の用例をわかっていないからです。

しかし単語をフルセンテンスで覚えるようにすれば、定冠詞を間違えたり抜かしたりすることがなくなります。体に英語の感覚が染み付いているので、違和感を覚えるのです。だから直感的に「Play piano」ではなく「Play the piano」だとわかるようになる。覚えることを目的にしているのであれば、手書きが一番でしょう。

手を動かすと脳が発達する

――となると、小飼さんにとって手書きメモは矛盾していることになりますか?

メモは自分が忘れてもいいように書くもの。それなのにわざわざ手で書く必要がありますか? だから私はメモをとらないのです。ただしこれはその人の年齢や段階によって違います。いくら私でも、子どもに「ノートをとるな」とは言いません。しかし子どもたちが成長してからも、手書きでメモし続けろというのはおかしいし、効率的ではありません。目的によって手段は変わるということです。

――今後は手書きの機会が減っていくと思われますか?

手書きそのものはなくならないでしょうが、コストが高いという認識になると思います。つまり手書きにプレミアがつくのです。念を押しておきますが、私は別に手書きを軽視しているわけではありません。

そもそも人間が万物の霊長になったのは手があったから。脳の大きさや複雑さではないのです。手や指を動かすから私たちの脳が発達したのであって、その意味では手書きが大事だと思います。特に子どものうちは手を使って大いに落書きをさせたほうがいいでしょうね。

(撮影 : 中村浩二)



INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
元中国新聞記者。2008年に始めた著者インタビューポッドキャスト「人生を変える 一冊」をきっかけに起業。現在は、企業や教育機関、公共機関などにポッドキャストを中核としたサービスを提供している。インタビュアーとしても精力的に活動、渡邉美樹さん、堀江貴文さん、石田衣良さん、寺島実郎さんらこれまでにインタビューした人物は1,000人を超える。
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