アップリンクは、入江悠監督の『SR サイタマノラッパー』、松江哲明監督の『ライブテープ』など、数多くの映像作品で録音技師として活躍する山本タカアキ氏をゲスト講師として招いたワークショップ「山本タカアキのデジタル・ムービー・ワークショップ(音)」を渋谷アップリンク・ファクトリーにて開催した。

本ワークショップの様子

同社が隔週水曜日に行っている「アップリンク デジタル・ムービー・ワークショップ」。その一環として開催された今回のワークショップは、簡単な映画制作のプロセスやスタッフィングについての紹介から始まった。まず、今回のメインテーマとなる映像作品のサウンド全般を受け持つ録音部から、照明部、撮影部に至るまで、作品制作に欠かせない各種技術パートなどを解説。さらに、「録音」、「音楽」、「音響効果」、「整音」、「光学リレコ」など、映画の音に関する仕事についても、専門用語の解説など含め、さらに詳細かつわかりやすい説明が行われた。

映画のサウンド収録に使われる機材紹介

撮影現場のシチュエーションをわかりやすく説明する山本氏

映像撮影時のサウンド録音作業については、一般的に利用されるマイク(ガンマイク/ピンマイク/ハンドマイク)や録音機材の紹介、そのメリット/デメリット、特性、取扱方法などがプロフェッショナルならではの視点で語られた。一般的に、撮影現場でよく利用されている「ガンマイク」は、指向性が強く向けた方向のみの音を拾い、そのガンマイクを覆うように設置されているモコモコした風防を「マイクジャマー」と呼ぶ。また、マイクを撮影時に演者により近づけるために使用される物干し竿状の棒を「マイクブーム」という。山本氏は「実は、このマイクブームを使いこなすにはかなりの技術が必要であり、録音の善し悪しを左右するほど重要」と単純そうに見えるマイクブームの操作について語った。ちなみに、「ピンマイク」は、常に至近距離で音声を録音できるというメリットの反面、着衣の着ズレや動きによるノイズ、衣服の下からのマイキングになるなどのデメリットがあるのだという。そのほか、実際の撮影現場を想定したマイキングやマイクのセットアップ方法についてのアドバイスや、アマチュアが録音の際に悩みがちなシチュエーションへの対応やサウンドチェックの方法なども紹介された。

録音技師 山本タカアキの作業環境とは

ワークショップ後半では、撮影現場の録音作業と同様に大切なダビング(フィルム作品)/MA(テープ作品)とよばれるサウンドの仕上げ作業全般について紹介。山本氏は、メモリーまたはHDDベースのマルチトラックレコーダーで収録した各種音素材をPCへ取り込み、各種サウンドの仕込みやノイズリダクション、波形編集、ミキシング、オートメーションといった、ほとんどの作業を「ProTools」(PCベースの音声録音/編集システム)上で行っている。特にミキシングについては、「作品の出来を左右する非常に大事なものであり、個人的には楽しい作業のひとつでもあります。ぜひ皆さんも納得いくまで何度でもチャレンジして下さい」と語った。さらに、映像作品の中でよく使われるいくつかのサウンド効果やテクニックを検証する実践的なレクチャーも実施。「ずり上げ/ずり下げ」、「フェードイン/アウト」、「カットアウト」といったサウンドの演出手法が、同様の映像に対してどのような印象の違いをもたらすかなどを間近に体験することができた。

実際のサウンド効果を来場者にも耳で確認してもらうため、山本氏自らが用意したサンプル映像による聞き比べなども実施された

本ワークショップでは、現役で活躍する録音技師ならではのテクニックやTIPS、各種機材の紹介などの話にとどまらず、山本氏の体験を元にした撮影現場での苦労話など数々のエピソードが語られた。そのため、映画を作りたいクリエイターはもちろんのこと、映画は観るだけという人にとっても非常に楽しく、奥が深い映画の「音」の世界をより良く知ることができる有意義なワークショップとなった。